国際分散ポートフォリオの為替リスク

例えば為替ヘッジして米国株を100万円買う場合と、為替ヘッジせず米国株を100万円買う場合と、どちらも突っ込むのは同じ100万円であって、前者から後者に乗り換えて追加的に米ドルのエクスポージャを得ようとするとき、追加的に円の残高は要求されない。当たり前の話なのだが、このことがポートフォリオ評価における為替リスクの扱いを、すこしだけわかりにくくするのは、要するに米ドルのエクスポージャを「資産クラス」とは考えにくい。


別の言い方を試みるなら、外貨預金は(残高を要求される)円の預金と(残高は要求されない)米ドルのエクスポージャの組み合わせだと思うと、副次的に為替と金利差の関係が肌で感じられるかもしれない。あるいは各種デリバティブズを連想される方もいるかもしれないが、ともあれ残高のないリスクは無数に存在していて、その身近な代表選手として為替が挙げられるだろう。残高など放っておいてリスクを対象として分析することは肝要で、その簡単な一例を今日は挙げてみたい。


共分散配分
国内債0.2%35%
国内株0.1%4.0%25%
国債0.1%0.0%0.1%15%
外国株0.0%1.6%0.1%2.6%25%


適当に土台をこしらえてみたが、細かな数字が気になる方は、お好きに変えてみて下さい。どこかで見たような(あまり気分のよくない)ポートフォリオ*1を挙げてみたが、その細かな話はまたいずれ。ここで外国資産についてはヘッジされた、つまり為替の傘を外した状態を基本に考えることが、自然に感じられるだろうか。だと嬉しいな。で、為替リスクを追加的に評価*2しつつ、各リスク要因毎に、それぞれ寄与の大きさを評価する。しばしば用いられる分解方法*3を採るが、結果に見える数字そのものよりも、相対比較から何かを感じていただけると嬉しい。

外国資産について為替ヘッジした場合

残高に比して、大きなリスクが国内株からもたらされることに驚かれるかもしれない。例えば残高の大きな国内債と比べて、もちろん株式のリスクは圧倒的に大きいわけで、リスクを対象として考えることの具現化のひとつである。そして、ここでは外国株と外国債について、どちらも為替ヘッジした状態としており、当然のことながら為替リスクは存在しない。したがってポートフォリオへの寄与はゼロである。


リスク寄与
国内株54.1%
外国株39.8%
国内債4.6%
国債1.4%
為替0.0%

外国資産について為替ヘッジしない場合

多くの年金ポートフォリオと同様に、外国資産について為替ヘッジしない状態を基本とすれば、そのことはリスクの一翼を担う。国内債のリスクや、為替ヘッジした外国債そのもののリスク寄与に比べて、為替が大きな顔をすることになるのだが、債券とは異なって残念ながら、そうした為替リスクに見返りを期待することは簡単でない。円が購買力を失う事態*4に対するヘッジ方向ではあるものの、ひたすら円安が続くとは限らないわけだ。


リスク寄与
国内株43.6%
外国株32.0%
為替19.5%
国内債3.7%
国債1.2%

すべての資産について為替リスクがある場合

国内債や国内株であれ、例えば米ドルをベースとした米国のETFを通じて投資すれば、米ドルのエクスポージャの傘を被った状態となる。実際のところ、そうしたスキームで「世界中のETF分散投資」を謳うサービスは実在する*5わけで、このような設定が極端に例外的とは言えない。当然のように感じられるかわからないが、このケースでは為替リスクが支配的である。つまり何よりも為替の動向が、ポートフォリオの価値を左右してしまう。分散投資の名が泣く。


リスク寄与
為替60.3%
国内株21.5%
外国株15.8%
国内債1.8%
国債0.6%


為替のエクスポージャと同様に、例えば明日財布を落としてしまう事象は、今日のバランスシートには載っていないが、しかし純資産を動かしてしまう。残高として見えているか否かにかかわらず、さまざまなリスクに思いを馳せることは、基本的で大切なことだ。

*1:http://www.gpif.go.jp/operation/foundation/portfolio.html

*2:ここでは年率10%程度、株式や債券とは無相関と思う

*3:∂R/∂x1⋅x1 + ∂R/∂x2⋅x2 + ... + ∂R/∂xn⋅xn = R[x]

*4:例の日銀の話だ

*5:ロボ阿呆バイザーと呼ぼう