ジェンセン再訪 - 目標ベータを用いた運用評価

シャープ、トレイナー、ジェンセンと、立て続けに偉人が登場して、運用評価について解説される中で、実際に現場で見かける指標はシャープのみである。理由はおそらくシンプルで、要するにベータはノイジーで、わかりにくい。つまり顧客と共有できない。あるいは対ベンチマークで評価すれば、それは簡便なジェンセンと言ってもよいのかもしれない。多くの場合、目標とするベータは定義から1.0(いわゆるフルインベストメント)で、運用されるポートフォリオも基本的には沿ったものだと思えば、理解も検算も容易であることのメリットは大きい。


Rportfolio - Rbenchmark
= Rportfolio - βtargeted⋅Rmarket


ここでRは、実現リターンの短期金利からの超過分である。現在の下駄はゼロだが、当面は変わらないだろう。さて目標としてのベンチマークの明示は、もちろん顧客の便利のためにある。株式に突っ込んでいるはずのカネが、実際には現金に近かったり、あるいは何階建てにも高まっていたりすれば、この運用を含んだ、より外側のポートフォリオでは、マネジメントが面倒になってしまう。ところが最近は、そうした面倒を無視した、ある意味では先祖返り的な、開き直り運用もチラホラ見られる。ウチの商品を、そこらへんの指数と比較するのは勘弁して下さいと、例えばヘッジファンドを名乗る連中の一部だ。


アスネスの指摘*1を振り返るまでもなく、連中は例えば「従来の運用と相関が低い」などと謳っておきながら、実際には上げ相場で勝ち、下げ相場で負けている場合も少なくない。ベータの意味で、平均的には0.4程度とする調査もあるようだが、じゃ単にETFを四割分だけ買うアクションと比べてみると、その運用報酬は大分高い。もちろん成功報酬には、オプション性があることも忘れてはいけない。


さて枕が長くなってしまったが、今日の提案は、運用屋に目標とするベータを事前に明示させ、これを評価に利用しようという話である。百聞は一見に如かずだ、えい。


Rportfolio - βtargeted⋅Rmarket
= Rportfolio - βrealized⋅Rmarket
+ (βrealized - βtargeted)⋅Rmarket


どうですか。初等的だが、つまり簡便なジェンセン的評価は、1)実現ベータによるジェンセンのアルファと、2)目標からのベータ相違分とに分離することができる。市場との相関が小さい、つまりゼロベータを標榜する運用屋が、実際には0.4程度の薄パッシブに毛が生えたような連中だったと仮定しよう。このとき運用成績は、下記のように、毛と薄パッシブとに分離されることになる。


Rportfolio - 0.4⋅Rmarket
+ 0.4⋅Rmarket


市場上昇時に「運用成績」の一部は、ベータ相違分を表現する第二項に移動する。市場下落時の「運用成績」の一部も、ベータ相違分を表現する第二項に移動する。一方で例えば採用する理由を探すなら、あるいは運用報酬の綱引きには、第一項を睨むことになるだろう。第二項が恒常的に大きな連中には、要注意だ。


この心地よさが伝わるだろうか。ほとんど伝わらない気がするな。ま、いいや。頭の片隅に覚えておいていただければ幸いである。市場感応度まで含めた形で目標を明示させることによって、任意の運用成績は、1)ジェンセンのそれと、2)ベータ相違分とに分離することが可能になる。それぞれの標準偏差についても考えたくなってしまうが、その話はまた今度。