アクティブ運用のためのタイミング取引

下落すると思ったら「機動的に現金の比率を高める」投信が人気だそうだが、市場タイミングを探る取引をどのように組み立てるか、具体的に考えてみよう。


∑wi⋅βi + wtrade⋅βtrade = βbenchmark + βactive


いきなり数式で恐縮だが、大したことは書いていない。右辺第一項は定数で、例えば株式のポートフォリオなら、多くはβbenchmark=1である。で、弱気の市場見通しを持つとき、右辺第二項でβactive<0のどこかに心地よい水準を探るわけだ。他方で左辺第一項では、既に抱えているポートフォリオにかかるベータについて、各銘柄の保有比率wiで合計して見積もる。この時点で右辺合計の水準が実現されていればハッピーだが、一般には異なるわけで、その差分を左辺第二項で取引しようという話である。指数先物を用いる場合にはβtrade=1である場合は多いだろうが、結果としてwtradeが押し出される。


より具体的に考えてみよう。例えば証券会社の株を多く保有しており、左辺第一項は高ベータだったとする。そうした銘柄選択に加えて、市場の下落にも賭けるとすれば、1)高ベータ分のキャンセルと、2)弱気の表現とが合計される必要があるというわけだ。あるいは中長期的にβbenchmark=0を宣言するヘッジファンドが、左辺第一項でロング側にバイアスを抱えていたとしよう。かつ短期的に弱気見通しを表現するなら、1)ロング分のキャンセルと、2)弱気の表現とが合計される必要がある。「オーバーレイ」などと呼ばれたりもするが、投資対象がグローバルだったり、あるいは債券であっても、通貨やデュレーション等について調整こそ必要になるものの、基本的な考え方は同じである。


自ずから見えてくるのは、右辺の二項それぞれについて、その性格が事前に宣言されていることは、とても大切だ。そこから顧客は商品の性格について把握し、より上層で、他のリスクや負債との組み合わせを検討する*1からである。然るに多くの投資商品は、この点について不明瞭であるばかりか、おそらく運用に際してさえ、右辺の二項それぞれを明確に意識しない場合は少なくない。実に残念な話だが、上記を踏まえつつ商品説明に注意深く耳を傾けるだけでも、そうしたイノセントをぼんやりと把握できる。あまりにも洗練されていない投信は、事前に選択肢から外しておくことが無難なのは言うまでもない。