相関のファンダメンタルズ

昨年の株下落で最もショックだったのは、分散効果がうまく機能しなかった
下落時は相関が高まるというのは頭でわかっていても、実際に経験するのは大違い


システムおぢさんにコメントいただいた中で、気になった部分がここでした。皆が一斉に資金を引き上げるとき、当然のことだが、どのリスク資産も一様に価格は下落するのだと。それらの相関は高まるのだと。そもそも相関を一定だと仮定するのが阿呆で、それらは常に変化するのだということを、我々は肌で理解する必要があるいう指摘は、金融危機後によく見られました。他方で、なぜ相関は変化するのか、どのように変化するのか、その背景は何か、それらをどのように用いるべきか、といった問題について、具体的に言及されたものをあまり見たことがありません。今日は、そのあたりに光を当ててみようかと。

相関がリスク資産の組み合わせに与える影響

例えば、トヨタ株と日産株を同時に買うとき、どちらか片方のみを買う場合と比べて、たしかに分散効果を期待できるはずです。どちらかの経営陣にスキャンダルがあっても、もう片方には普通なら変化はありません。もちろん分散効果をあまり期待できないような局面もあるはずです。例えば自動車需要そのものが減退すると予想されるとき、どちらも下落を避けられません。
一方で、相対的な変化を狙って、トヨタ株を買って日産株を売るとき、ポートフォリオの振る舞いは大分変わります。自動車需要が減退すると予想されても、びくともしません。日産株の売りからの利益が、トヨタ株の買いからの損失を補うからです。とはいえ、どちらかの経営陣にスキャンダルがあるとき、売りと買いの両翼のバランスが失われて、当初想定よりもリスクは拡大してしまうでしょう。
ポートフォリオの内容によって、意図しているリスクの内容によって、投資している個別のリスク資産の相関が高まることの影響は異なります。まず、このことを頭に入れておく必要があります。

「共通項」のレイヤー

さて、先の例示で大筋説明されてしまったのですが、そもそもリスク資産の価格変化に相関があることには、様々な背景が折り重なっています。「自動車需要」は両者のビジネスの将来に共通する重要な要因のひとつですから、その変化は当然どちらにも影響を与えます。一方で「経営陣のスキャンダル」は、一般には共通したり共有したりするものではありません*1から、どちらか一方にのみ影響を与えます。
想像力を働かせて、世に数多あるビジネスを、あらゆる共通項で串刺しにすべくトライしてみましょう。大手町に本社のある会社は、その周辺に何らかの危険が及ぶ*2とき、ビジネスの内容にかかわらず、共に影響を受けざるを得ないでしょう。巨大なパッシブ投資家が、何らかの理由で資金を引き上げれば、世界中の株価はいっぺんに下落せざるを得ません。まったく異なる国籍で、まったく異なるビジネスの要職に就く互いに見知らぬふたりが、たまたま同じ飛行機に乗り合わせれば、その瞬間には相関は高まっているとも考えられます。
あらゆるリスク資産を見渡して、そのすべてに共通するもの、一部に共通するもの、ほとんど共通しないもの。世の中に動くあらゆる要素を、そのように捉えることができるはずです。そんなふうに、あらゆる「共通項」を探し出して、大きいものから順に頭の中で階層に積み上げてみる。それらを、それぞれに揺らしてみる。相関にかかるリスク管理とは、本来そのようなものであるはずです。

情報開示と保守的なリスク管理

大切なことは、「共通項」の認識に正解など存在しないということです。今朝の乾いた風が、どのビジネスに影響して、どのビジネスにあまり影響しないのか、その見方は投資家の数だけ存在します。あらゆるリスク要素にかかる異なる見方は市場で交換され、世界中の投資家の総意として収束するはずで、バーゼルの連中だけがリスクを定義できるだなんて、どうかしてる。だって今は21世紀だぜ?銀行ビジネスを見るときも、自分のポートフォリオを見るときも、リスク管理とは、結局のところそうして世界のすべてを見ることで、より具体的には、あらゆるリスク要素を、それが誰と誰の「共通項」なのかイメージしつつ、上下左右にゆさゆさと揺らしてみる。すべての投資家がそうやってリスクを眺めるとき、世界はより安定するはずです。少なくとも、僕はそう信じてる。
保守的なリスク管理をしたければ、そのとき悪影響を与えそうなものを探し出す。ロングのポートフォリオなら、皆を一斉に揺らすリスクを念頭に置くこと、結果として各資産間の相関を高めに見積もることだし、ヘッジファンドなら、あまり共通項を持たない個別のリスクに着目すること、結果として各資産間の相関を低めに割り引いて考えること。


あらゆる相関には理由があるはずで、それらを探し出すことは実は投資の出発点なのだけれども、なぜなら、それらをすべて考慮して構成したポートフォリオのリスクに対して、投資家はプレミアムを要求するわけです。それに値段をつける。つまりすべてに。ああ、またしてもCAPMに戻ってきた。逆襲シリーズとして書いてもよかったのかもしれない。

*1:望ましくない例外も多々ありますが

*2:イヤな日付になりました