アクティブ運用のリスクプレミアム

21世紀にもなって、「アクティブ運用は平均的にはインデックスを下回るから、おすすめできない」などと、ドヤ顔で主張する専門家があちこちに沢山いるのは、実に残念なことだ。実際のところ、どうしようもないアクティブ運用が多数存在することは確かだが、だからといって誰も「選別する」リスクを負担しなければ、もちろんリスク資産の価格は非効率に向かう。つまりアクティブにチャンスが生まれる。アクティブは、いつでも世界に必要とされているし、小さくなり過ぎれば自律的に再拡大せざるを得ない。文章で書けば、これでハイ終わりなのだが、その構造について、今日はもうすこし覗き込んでみたい。すこし面倒な話になるが、俺の本音を聞いておけ。


簡単のために、すべてのリスクを負担する資金は、1)パッシブ的ファンドと、2)「市場中立」なアクティブ的ファンドの、ふたつの投信で運用されていると考えよう。皆がこれらに、それぞれに資金を投入する。このとき世界の資本市場のリターンRmは、パッシブ的ファンドのそれRpと、アクティブ的ファンドのそれRaとで、以下のように表現される。ここでWpとWaは、それぞれに投入される資金である。


Rm = Wp⋅Rp + Wa⋅Ra


仮定よりRpとRaは無相関で、そのときRmとRaの共分散は


Cov(Rm,Ra) = Wa⋅V(Ra)


であるから、Raのベータβa


βa = Wa⋅V(Ra) / V(Rm)


と表現される。WaまたはV(Ra)がゼロになれば、つまり誰もアクティブに投資しないとき、またはアクティブ運用がリスクをとらないとき、プレミアムは要求されない。世界の全体と相関しないからだ。一方で、このとき均衡マネジメント報酬*1


Fee = {E(Ra) - Rf} - Wa⋅V(Ra)⋅{E(Rm) - Rf} / V(Rm)


となるが、もちろん第二項はゼロに潰れており、アクティブが追いかける非効率は、そこに見込まれる裁定機会は、すべてマネージャに報酬として返されることになる。つまり参入したもの勝ち、リスクをとったもの勝ちの状況だ。この水準がゼロに近づくまで、WaまたはV(Ra)は、必然的に増えていくことになるだろう。均衡するのは


{E(Ra) - Rf} / V(Ra) = Wa⋅{E(Rm) - Rf} / V(Rm)


となる点だ。実に美しい対称に見えないだろうか。うん、いい気分だ。


もちろん、時に我々はアクティブに対して、収益そのものよりも、夢を求めてしまうことだってある。選別は、我々の未来を導く舵取りの役割を持つ*2が、そのいつだって魅力的なストーリーに払われるプレミアムは、マネジメント報酬に上乗せされることで、リスク負担の見返りを削り取ってしまう場合だってあるかもしれない。一方でインデックス信仰が広がるほど、我々がドライに、マーコヴィッツ流にリスクを見つめるとき、アクティブ運用のチャレンジの大きさは、そこに投入される資金は、裁定機会に導かれてサイズを膨らませるだろう。そう、これらは車の両輪だ。どちらが欠けても、馬車は走らない。

*1:id:equilibrista:20091225:p1

*2:投資そのものは、船を推し進める役割を持つ