リバランスの考え方

[twitter:@ActiveIndex] さんによる、資産配分のリバランスについて書かれた実証的な記事*1に触発され、その背景にある構造を探りつつ、徒然に書いてみます。投資対象とする資産に対して、あるいはアクティブなリスクでも同じことですが、何らかの「標準的な配分」を決めるとき、それが「市場ポートフォリオ」でなければ、それぞれの価格が時々刻々と変化するにつれ、ポートフォリオは必然的に、元の配分から乖離してしまうことになります。このとき、1)定期的に、あるいは、2)何らかの基準を超えた際に、標準的な配分に戻したり、あるいは戻す方向の取引を行うことで、どのように投資の目的を達成できるのか、というのが、ここでの問いになります。

バックミラーと見通しの表現

当然のことですが、配分が増えた資産は、その価格が(相対的に)上昇したことを示します。配分が減った資産は、その価格が(相対的に)下落したことを示します。つまり増えた配分を放っておくことは、(相対的に)価格が上昇した資産に対して、標準よりも増やした状態を意図することと同じことです。減った配分を放っておくことは、(相対的に)価格が下落した資産に対して、標準よりも減らした状態を意図することと同じことです。


価格が強含んだものが、その後も強含むとき、あるいは価格が弱含んだものが、その後も弱含むとき、放置された資産配分は、良好な成績を叩き出すことになります。価格が強含んだものが、反転して弱含むとき、あるいは価格が弱含んだものが、反転して強含むとき、放置された資産配分の成績は、低迷します。そう考えると、定期的な見直しの「頻度」を違えて、過去の成績を比較することは、相対的なモメンタムにかかるスペクトルを分析しているのと同じアクションになります。


そういったモメンタムを、どちらかといえばアクティブな投資判断を、どのようにポートフォリオに取り入れるのかは、意見が分かれるところですが、その調査に際しては、どのように資産を階層化するのか、あるいは過去の成績をどのように分析するか、よく準備する必要がありそうです。ここでは、そうした判断については一旦横に置いて、どのようなモメンタムも平均的には効果を生み出さないものと思い、ひとまず話を先に進めます。

乖離リスクと取引コスト

さて、標準的な配分からの乖離を嫌うといっても、資産によってリスクの大きさが違えば、ポートフォリオに与える影響の大きさは異なることになります。例えば、株式が標準的な配分から5%の乖離を起こすことと、債券が標準的な配分から5%の乖離を起こすことでは、そのリスクの大きさは異なります。もっと言えば、互いに相関のある資産が、異なる方向に乖離を起こすことと、互いに相関のない資産が、異なる方向に乖離を起こすことでは、そのリスクの大きさは異なります。そういった面倒な事情を考慮に入れて、標準的な配分と現在の配分とが、どのくらいリスクの意味で離れているのかを探るためには、結局のところ、慣れ親しんだマーコヴィッツの枠組みを用いるのが手っ取り早い方法です。特にリターン予測は行わないと先に決めましたので、資産配分の乖離を、各リスク水準と相関係数によって評価*2します。


相関係数リスク
水準
標準的な
配分
現在の
配分
乖離
株式20%60%65%+5%
債券0.14%40%35%-5%
超過10.205%30%31%+1%
超過200.201%20%18%-2%


リバランスにかかるコストは、狭義の取引コストの意味でも、またプログラムの実行にかかる手間の意味でも、馬鹿になりません。評価した乖離リスクを打ち消すために、いくらなら費やせるのか。あるいは単位コストあたり、どの程度リスクを低減させることを期待するのか。そのバランスについても、考える必要が出てきます。「大して乖離していない」にもかかわらず、ちょこちょこ評価と取引を繰り返すのは面倒かつ無駄ですし、かといってトリガーを遠くに置けば、意図しない投資成果を生んでしまう場合もあります。また注意すべきは、「標準的な配分」の個性*3によって、乖離のしやすさは異なります。

標準への固執と人生のバランスシート

「標準的な配分」を保つために、どの程度のコストを費やすのか。それが簡単な問いではあり得ないのは、その標準の決定プロセスから理由と背景に、踏み込まざるを得ないからです。リスク資産のポートフォリオの他に、例えば自宅を持っていれば、その価値も変動しますから、人生の全体の観点からは、より大きなポートフォリオを考えざるを得ません。その他に、例えば住宅ローンを組んでいれば、その価値も変動しますから、人生の全体の観点からは、より大きなポートフォリオを考えざるを得ません。将来の年金や、老後の暮らしに不安を抱えているなら、人生の全体の観点からは、より大きなポートフォリオを考えざるを得ません。


引退までの給与収入

年金

自宅

現預金

リスク資産
引退までの生活費

引退後の暮らし

住宅ローン

好きなことにつかうお金
家族への遺産


もちろん、より大きなポートフォリオさえ時々刻々と変化します。例えば来月の給与が現金に姿を変え、取引を通じてリスク資産へと放り込まれるとき、リスク資産のリバランスの問題は、また別の趣を持ちます。例えば孫にお年玉をやる引退後の暮らしで、リスク資産が現金に姿を変えるとき、リスク資産のリバランスの問題は、また別の趣を持ちます。そうして常にフローが発生しつつ、より大きなポートフォリオのリバランス問題を考えざるを得ないとき、リスク資産の「標準的な配分」にどの程度の固執するかは、決して簡単な問いではあり得ません。


世界は不思議なもので、そうした人生のそれぞれのチャレンジ、バランスシートのコンポーネントで言えば、主に将来の給与収入が人間の数だけ集まって、地球上のチャレンジの全体を構成します。あらゆるリスクの価格は、その世界の全体との関係で評価されるというのがCAPMの主張ですが、大分話が逸れてきましたので、今日はこのへんで。

*1:http://activeindex.blog101.fc2.com/blog-entry-17.html

*2:[W-WBM]TΣ[W-WBM]

*3:もっと言えば、市場ポートフォリオからの距離