資金フローはリスクプレミアムに影響を与えることはできない

QE2を巡る様々な議論の中でも、ぶっちぎりに痛快だったのは、WSJに寄稿されたショールズのそれ*1だが、WSJ日本版の翻訳*2は、読んでも意味が理解できないもので、あまりにも残念なので、適宜補足を加えつつ、その前半部分を訳してみたい。「包括緩和」を掲げる日銀の皆さんも、是非読んで下さい。

(1) もしかしたら短期的には、QEはリスクプレミアムを押し下げて、つまり長期金利を引き下げたり、株価を押し上げたりして資金調達を助け、投資の後押しをするかもしれない。投資が促進されるとすれば、それは素敵なことだが、しかし問題は、それが合理的な議論とは言えないことだ。資金フローはリスクプレミアムに影響を与えることはできない。そのとき投資家は、単にリスク資産を政府に売りつけて、自分は現金を持つだろう。リスクは投資家からFedに移転されるだけで、プレミアムの水準は変わらない。


(2) もしFedが、投資家がリスク資産を買うアクションを促すことができるのなら、リスクプレミアムは下がってもおかしくない。そうなれば投資は促進され、富も、消費も、雇用も増やすだろう。しかし問題は、Fedが我々の世界の外にあるわけじゃないってことだ。我々はFedを所有しており、Fedがリスクを抱えることは、我々の社会がリスクを抱えるのと同じことだ。サブプライムローンのリスクを消し去ることができなかったように、我々のリスクを消し去ることはできない。仮にFedがリスクプレミアムに影響を与えたとしても、社会がリスクを抱えるがゆえ、その分だけ投資家はリスク資産を手放し、安全な資産を持ちたがるだろう。


(3) QEは、経済を刺激し流動性を供給し続けるという政府のコミットメントについて、不確実さを減らし、見通しを明るくさせる。しかし問題は、Fedがどのように出口戦略に至るのか、またそのことがどんな影響をもたらすのかについて、不確実さを増やし、見通しを暗くさせることだ。実際に、貸し手がバランスシート上のリスクを減らしたところで、先行きについての不確実さは増えてしまっている。この点は、リスクプレミアムを押し下げようというプランとは、逆の方向だ。


根本的な話だが、Fedはリスクプレミアムに影響を与えられるだろうか?短期的には可能かもしれない。Fedが高く買ってくれるのなら、債券でも株式でも、そこまでは一時的に値段が吊り上がってもおかしくない。しかし、このアクションは残念ながら、実際の投資には繋がらないだろう。実際の投資の多くは、半年以上のデュレーションで実行されるのが普通だ。


一時的にリスク資産の値段が上がったとしても、そんなもの続くかどうかわからないんだから、とりあえずパクっと貰っておくことになるのは、実際にあちこちで起きていることだ。それは結局のところ、貸し手から借り手への移転に過ぎない。借り手がビジネスの当事者ならまだマシだが、もちろん別の意図を持った連中だって潜んでいる。そう、金融緩和なんてのは投機屋への補助金に過ぎないのだ。さらにその先では、イノセントな新興市場が祭りに巻き込まれている。