政府のバランスシートを微分してみる

政府のバランスシート

財政にかかる戦略を立てようとするとき、いわゆる普通のバランスシート的な発想は、あまり役に立たない。外貨準備がいくら溜まったとか、道路や施設がどのくらいあるとか、そんな目に見える資産よりも、来年にはどのくらい税収があるか、どのくらい国債を発行するのか、というフローの方が、全体に与える影響はずっと大きいからだ。だからといって、とにかく「増税しよう」というのは、戦略としても、助言としても、あまりにも月並みだ。所与の「税収」予測の下で、もちろん政府資産は財政を左右する。


将来の税収

将来の社会保険料

米国債

財投

年金資産

固定資産
将来の行政サービス

将来の社会保障

国債

財投債

年金負債
将来世代への遺産


パンフレット『平成20年度「国の財務書類」について』*1を見ながら、えいとつくってみました。とても大雑把ですが、勘弁して下さい。


そう、どうして財政の戦略を練るのが面倒なのかといえば、それはバランスシートがプアだからだ。来年の税収と建設された高速道路とは全然別のものだが、しかし我々は何としても、そいつらを同じ土俵に乗せなければならない。最近話題の「モダンな」バランスシートの考え方だ。将来に金を生み出すものは、すべて資産である。つまり将来の税収は資産だ。将来に出て行く金は、すべて負債である。つまり将来の政府支出は負債だ。財政がひとつの表になってしまうのは、特に財務官僚には、さびしいと感じられるかもしれない。しかし、これは明るい未来に向けた作戦会議のための重要な地図なのだ。

微分してみる

このモダンなバランスシートは、もちろん時々刻々と変化する。微分などと格好つけてみたが、今日のチャレンジは、来年のそれとの差分を考えてみることだ。それぞれの要素を覗いてみよう。「将来の税収」は、今年の分が実際に入ってきて、それ以降の未来の分は、それぞれ一年分だけ手前に近づいている。厳密に考えれば、将来入ってくる金額の割り引き方も変わるはずだが、今日は大雑把でいい。「将来の行政サービス」も同様に、今年の分が使われて、それ以降の未来の分は、それぞれ一年分だけ手前に近づいている。で、国債と財投債の利払いをして、気が重くなるが新たに国債を発行して、地方に多少お金を突っ込んだら、残りは公共工事にも回せるかもしれない。もちろん昔の道路は、ちょっとだけ「老化」している。勘のよい方は既にお気づきだと思うのだが、微分というか差分は、P/Lという奴に近いコンセプトだ。


さて、増税すると首相が心に決めるとき、政府の「モダンな」バランスシートはどんなふうに変化するだろう。もちろん、その一番大きなコンポーネントが、左上の奴が、大揺れである。考えてみるとコイツは、おそらく刻一刻と変化している。納税者が今日の昼飯で素敵なイノベーションを思いつくとき、トイレでトンでもない計画を立てるとき、将来の日本のビジネスは変わって、生み出される利益は変わって、政府のバランスシートはダイナミックに動くのだ。