財政リスク方程式
今日は [twitter:@fedjapan] さんの金融デザインセミナーで、財政についてお話をさせていただくチャンスがあった。財政や国債に密接に関連して仕事をされる、あるいはそれらについて真剣なビューをお持ちの、べらぼうに優秀な方々が集まり緊張したが、その大切な時間を無駄にしないよう、ほんのすこしでも新しい知恵を持ち帰っていただけるように、準備し努力することは、もちろん自分のためにも、とても勉強になった。主宰の方には、引っ張り出していただいたことを深く感謝し、こうした貴重な機会を今後もいただけるように、常に考え続けようと思う。
さて持ち込んだ道具は、鳥瞰したモダンなバランスシート*1だ。財務省さんの粋な計らいか、ちょうど先週に平成21年度「国の財務書類」*2がアップデートされ、いま僕らはホットな数字を眺めることができる。ちなみに中の人によれば、エクセルと夜中に格闘なんて時代はとうに過ぎ去り、オートメーション化は進んでいるそうです。この偉大な作業品質を見るだけでも、日本は捨てたもんじゃないと思うけどな。素晴らしい資料は、どこまでも勉強になるので、是非目を通してみようぜ。
資産 | 負債 | ||
---|---|---|---|
[税収等] | 51xN | [行政サービス] | 91xN |
[社会保険料] | 36xN | [社会保障] | 45xN |
米国債 | 92 | 短期債 | 97 |
財投 | 155 | 財投債 | 122 |
固定資産 | 185 | 国債 | 598 |
年金資産 | 121 | 年金負債 | 130 |
独法他 | 94 | 借入 | 22 |
次世代への負債 | 371 + 49xN | その他 | 49 |
さて「プライマリーマルチプル」と名付けた"N"は、当該フローが今後も続くと考え、割り引いた現在価値を表現すると考えていただいても構わない。せっかくの新たなネーミングだと連呼してみたものの、しかし与謝野大臣が増税を喚く税収と、少なくとも現在のところ着々と拡大を続ける社会保障支出とが、同じように伸びると考える、あるいは同じように割り引く合理性は、残念ながらあまり強固ではなさそうにも思えてしまう。
未来の金融をデザインされる皆さんには今日、そんなアービトラージプライシング*3な財政リスク方程式について、提示してみるチャレンジに出てみた。暴挙だったかもしれない。要するにマルチプライヤーを、フローのコンポーネント毎に分けてみたのだ。えい。
次世代への負債 = 371 - 51k - 36l + 91m + 45n
財政リスクは、現在の純負債と、それから各種フローの線形和によって表現される。美しいと思われるだろうか。もちろん、鋭いというか、マニアックな皆様の中には、「税収等」ったって、あるいは行政サービスだって、その下に内容は色々あるだろと、それらの別によって当然、互いに異なって割り引く方が自然だろと、思われるかもしれない。ええ、おっしゃるとおりでございます。
つまり僕らの財政リスク方程式は、あるいは任意のバランスシート主体を評価するとき、そこに内在するリスクの種別に、物事を分けて考えること*4が、いつだって合理的だ。APTのコンセプトは、財政や国債の文脈でも、鮮やかに世界を見せる眼鏡だった。今日の会場となった、地方財政が産み落とした豪華なホールから一歩出て、梅雨の明けた焼けつくような陽射しの下で、その核心的なリスク群は、それぞれに、お会いした皆さんが動かしていくことを確信した。