シーゲルのパラドックスを解き明かす
どうにも寝違えた首が痛くて、仕事を進める気が起きないのだが、かといってアクティブに動けるわけでもないので、とりあえず画面に向かって記事を書き始めた。こういうときのネタは、引き出しの奥から探してくる。
さてシーゲルのパラドックスとは、外貨エクスポージャを保持することによって、「ゼロサム」だったはずの外国為替から収益を期待できてしまう不思議な話である。詳しくは下記を確認されたい。で、痛いのでシンプルに、謎を解き明かそう。
1ドル=100円で、円を売ってドルを買ったと思う。何らかの理由で1ドル=200円までドル高が進み、再び1ドル=100円に戻ってくるとき、儲かっている。なぜなら、行きは100%のリターン、帰りは-50%のリターンで、合計すれば50%のリターンだからだ。簡単のために、両通貨に金利差はないものとしたが、この仮定は後で緩められる。
ここまで書いただけで、何かがおかしいと感じられるかもしれない。そう、上記は1ドル=200円になった際に、200円分になったドルの半分を売って、100円分まで「リバランス」することを前提としている。何もしなければ、寝ている間に勝手に往復しただけで、損も得もない。一旦100円を「利益確定」すれば、その後に含み損に陥る50円を差し引いても、まだ50円が残る。
逆側にいる、ドルの投資家から見てみよう。1ドル=100円で、ドルを売って円を買ったと思う。何らかの理由で0.5ドル=100円まで円安が進み、再び1ドル=100円に戻ってくるとき、儲かっている。なぜなら、行きは-50%のリターン、帰りは100%のリターンで、合計すれば50%のリターンだからだ。簡単のために、両通貨に金利差はないものとしたが、この仮定は後で緩められる。
ここまで書いただけで、何かがおかしいと感じられるかもしれない。そう、上記は0.5ドル=100円になった際に、0.5ドル分になってしまった円を買い増して、1ドル分まで「リバランス」することを前提としている。何もしなければ、寝ている間に勝手に往復しただけで、損も得もない。最初の0.5ドルの含み損は、更なる「ナンピン買い」による1ドルの利益で一掃し、まだ0.5ドルが残る。
僕の言いたいことが、伝わってきただろうか。つまりシーゲルのパラドックスは、暗に「リバランス」を前提としている。延いては両者のリバランス取引に逆側で応じてくれる、外部の参加者を必要としている。ここでは円安ドル高の波に乗って、円売りドル買いを行う「順張り」投資家のことだ。為替の変動を「妨げる」取引に期待される利益は、為替の変動を「助長する」取引に期待される損失によって提供されるのである。当然依然、市場の全体としては「ゼロサム」だ。
こうした性質をもって、外国資産にかかる為替をどのくらいオープンにするのか、どのくらいヘッジするのか、その一般的な姿を明らかにしたのがユニバーサル・ヘッジング*1である。為替にかかるボラティリティの関数として表現されたブラックの金字塔だが、実に残念なことに、この理屈は誤解されている場面しか見たことがない。
注意したいのは、もちろんシーゲルもブラックも、特に逆張りを主張しているわけではない。交換取引としての為替が持つ一般的な性質について記述しただけだ。順張りが「儲かる」ように見える局面や考え方が存在することとは、まったく矛盾しないばかりか普通に両立するわけだが、そっち方面の話は、また今度。とりあえず風呂に入ります。