日銀解散

「お金の量は中央銀行が調節しろ」みたいな素っ頓狂を、さも普遍的な事実であるかのように吹く学校の先生が複数いる(これ*1とかこれ*2とか)事実に驚き、そんなところじゃ何も学べないから俺のところへ来いと言いたくなる気持ちを抑えて、なぜそれが馬鹿馬鹿しいのか、端的に示す例を挙げよう。日銀解散だ。


日程の話だが、明日ではちょっと急すぎるので、明後日に解散することにしよう。そのために明日準備すべきことは何か。まず第一に、僕らが持っている紙幣を銀行に持っていく。明後日から使えなくなってしまうので、その前に預金にしておくのだ。今後の買い物のために、カードの類や電子マネーも同時に用意しよう。うっかりヘソクリを忘れないように、よく冷凍庫を確認することも大切だ。


紙幣を受け取った銀行は、それらを日銀に返す代わりに、日銀が持っている資産を(金太郎飴的に)受け取る。もちろん日銀への預金も、同時に解約だ。代わりに受け取る資産の多くは国債だが、かつて連中が銀行から買い取った株式や、包括緩和で購入したETFやらREITやらも、その一部には含まれてしまう。リスクがどうしたとか自己資本比率がどうしたとか、規制がうるさい銀行にとっては面倒だが、よく考えてみると、そんなものを日銀が持っていたことの方がずっとおかしい。


さて、これで日銀の資産も負債も全部消えた。決済やらシステムをどうするのかって?不景気の最中に、仕事が増えて嬉しいと思って下さいよ。連中抜きでも快適に機能する短期金融市場を、僕らで頑張ってこしらえよう。これまで取引に使っていた日銀の負債は、裏付けとして持っていた国債やら余計な資産と一緒に、そのまま民間へと移転され、いまハイパワードマネーはゼロになった。物価はゼロに近づくだろうか。円は限りなく強くなるだろうか。貨幣乗数は根元から消え去り、我々の経済は不景気のどん底に叩き込まれるだろうか。


僕はそうは思わない。僕らの日常は、おそらく変わらない。千円札の代わりに、スイカやナナコで玉ねぎを買うだけの話だ。代金は後日、八百屋の口座に振り込まれる。誘導目標が失われ、金融市場で資金の出し手と取り手が綱引きしても、どうせ短期金利はゼロに近いままだろう。世界の全体を調節できる機関など、最早どこにも存在しないわけだが、しかし解散する前の現在の日銀は、果たして僕らの経済を制御できると感じられるだろうか。「デフレ脱却」できないのは、「お金を日銀が刷らないから」なのだろうか。


どうも答えは学校じゃ教えてくれないみたいだから、ときどき読みにおいでよ。短期金融市場は、地球上で一番非効率な、秘密の花園なんだぜ。