フィリップス曲面について考える

勝手に曲面にしてしまったが、例の6次元の奴*1だ。物価や失業率を考えるのに、平面で切り取っちゃ駄目だろという話で、しかしこういう手強い相手には、どうしても均衡アプローチを探りたくなってしまう。要するに遠い未来を考えたくなってしまう。もちろん曲面から捉えたいのは現在の話であって、そのあたりは結局のところ、僕らのCAPMと同じくらい示唆的で、かつ掴みどころがない話になると、あらかじめ言い訳しておこう。さて、この先日の道具を、もう一度眺めてみる。


支出 = 消費 + 人への投資 + 株式投資 + 債券投資 + 不動産投資 + コモディティ投資


こうして横に長い式を見るだけで、頭が痛くなってくる方も多いと思うが、僕だってちっとも気分は優れない。新たな予算は、この右辺の六項目に流れていくので、いろんな時点でポツポツと6次元空間に点を打ってみると、何か見えるかもしれませんねという話だ。普通に見えない気もするが、しかし取っ掛かりはある。右辺の第二項以降は、要するに投資*2なので、連中をまとめて分離してしまおう。だって、どうせ互いを行き来するだろう。


(1) 支出 = 消費 + 投資
(2) 投資 = 人への投資 + 株式投資 + 債券投資 + 不動産投資 + コモディティ投資


なんだか元に戻ってしまった感も漂うが、思考が行き来する過程で、何かが生まれるのだと思いたい。式(1)は、しかし古典的な、要するに効用の話じゃないか。ノイマンからの歴史を振り返るまでもなく、あちこちに小難しい理屈が転がる、タックルしがいのある問題に行き着いた。平面に描こうとすれば、おそらく要するに「フィリップス曲線」における「失業率」を「リスクプレミアム」に置き換えた形だ。ヘイ、とてもすっきりしたぜ。もちろん、我々がリスク資産の全体に要求する見返りの水準は、観測が難しい。しかし、問題の構造が明らかになっただけでも、大きな成果ってもんだ。消費も投資も、どちらも促されるとき、なんとなくグラフを左上に向かうだろうか。その予算の元手について、考えたくはならないだろうか。

物価上昇率
  ↑
  |
  |
  |
  ┼ ― ― ― → リスクプレミアム


そして、失業率を擁するはずの式(2)へと進もう。我々は、自分が抱えている複数の投資先に対して、常に評価を継続している。そんなとき、すべての選択肢において、(ポートフォリオへの)追加的な投資のリスク∂σ2/∂wiに対する追加的な見返り∂μ/∂wiは、同じになっている*3と思う。要するに、まずは落ち着くところに落ち着いていると考える、これが均衡アプローチだ。ちっとも難しくない。


∂μ/∂w人への投資 / ∂σ2/∂w人への投資 = ∂μ/∂w株式投資 / ∂σ2/∂w株式投資 = ∂μ/∂w債券投資 / ∂σ2/∂w債券投資 = ...


落ち着くところに落ち着いているのだから、追加的な投資を考える際には、これまでと似たような比率で、まんべんなく配分していくことが自然なわけだが、しかし当然のことながら、僕らの世界は落ち着いていない。例えば支出を促す源が、永続は困難と思われる低金利政策であった場合に、より「逃げやすい」選択肢が好まれるだろうことは、容易に想像がつく。問題に、あらたな条件または選好が加わるわけだ。そんなふうに、我々の生きる社会では、その時々での状況や個々の判断は常に変化しつつ、市場ポートフォリオに織り込まれていく。もちろん誤解やノイズだって少なくない。しかし条件や選好が変われば、要するに他人にとっては、それらがチャンスであることも自明だろう。


既に気づかれている方も多いと思うが、この話は、冒頭に雰囲気を例示したCAPMの枠組みそのものだ。リスクの取引を含んだ一般均衡*4は、いま逆襲の時を迎えている。「ベータは役に立たない」なんて嘯く半可通の連中を、高まった流動性を味方に、遠慮なくカモってやろうぜ。

*1:http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20120128/p1

*2:最後の奴は微妙だが、疑わしきは入れておけと一般化できると思う

*3:http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20091104/p1

*4:

Exploring General Equilibrium (The MIT Press)

Exploring General Equilibrium (The MIT Press)