日銀コインに走る「質への逃避」

理屈や実務の、本物のプロフェッショナルでさえ、まだ誰も見たことがないものの話になると途端にピヨピヨしてしまう例を、しばらく前に立て続けに目の当たりにしたので、いつものように端的に突っ込んでみる。お題は中央銀行が仮想通貨を発行すると、というアレだ。

マサチューセッツ工科大(MIT)で経済学教授を務めるホルムストローム氏は「恐ろしい考えだ。強いて言えば、困ったことがなく順調な時期なら素晴らしいだろう。だが、もし危機が起きれば」、その安全とされる資産が相次ぐ銀行破綻をいざなうことになると主張した。
同教授によると、危機では大量の資金が市中銀行から流出し、中央銀行に押し寄せる。中銀は突如として市場の仲介業者の役割を引き受けることになるが、市中銀行の持つ情報の多くが中銀にはなく、銀行システムにどうやって資金を戻すのか解決困難な問題を解く必要が生じる。

中央銀行発行の仮想通貨、破滅いざなう−ノーベル賞受賞のMIT教授 - Bloomberg

日銀などの中央銀行による仮想通貨発行については「慎重に考えるべき点が幾つかある」と強調。「銀行券を代替する仮想通貨を発行した場合の銀行預金への影響を考慮する必要がある」ほか、「金融機関の取り付け騒ぎが起こる場合、モバイルやネットで非常に早いスピードで起こる可能性もあり、流動性危機が加速する可能性もある」との見方を示した。

インタビュー:ビットコイン、金融政策に影響ない=日銀・山岡氏 | ロイター


彼らは基本的に、同じことを言っているように思われる。つまり、いま使っている銀行が危ないと思ったら、我々は預金を日銀コインに移すと。そうすると、銀行は預金を引き上げられて困ってしまう。あるいは日銀には途端にカネが押し寄せて困ってしまうと。


困らねーよ別に。そうして日銀コインが買われた分だけ、日銀は銀行にカネを貸してやればよい。図示しよう、えい。


こうだったのが↓

         銀 行             家 計
     ------+------     ------+------
      貸 出|預 金       預 金|


こうなる↓

    銀 行         日 銀         家 計
------+------ ------+------ ------+------
 貸 出|預 金   預 金|コイン コイン|


日銀が、銀行と家計の間に挟まれただけだ。また言うまでもないことだが、銀行は新たな貸出にも特に困らない。貸した先が預金をコインに振り替えるとき、同額が日銀から銀行に預けられる。


聡明な読者の皆様は既にお気づきだと思うが、預金銀行と貸出銀行の分離みたいな話は、そもそも新しくもなんともない。ここでは預金銀行を日銀コインが独占するという、その特殊な状態に過ぎない。そう思うと、金融システムの未来についてイメージがシェイクされないだろうか。どのような預金銀行のあり方が望ましいだろうか。貸出銀行には、どのように多様が生まれ得るだろうか。


さて細かい話と思われるかもしれないが、そのとき僕は問いたい。なあ日銀よ、そのコインには利息を付けるんだろうなと。この図を睨みながら。