こうある「べき」の気持ち悪さ

あちこちで教えていただいたのだが、テイラールールのテイラーがブログを始めたそうで、世間に向けて何か言いたくなったのだろうか。本人の名前がついたその理屈は、要するに、短期金利はインフレとGDPギャップによって決まらざるを得ないので、中央銀行は余計なことをせず、黙ってこれに従っとけ*1というシビれる主張だ。21日にポストされた2回目の記事では、クルーグマンの例の長文を引き合いに出しながら、金融危機に関してコメントしている。部分的に引用してみよう。

But there are other opposing views to cover. In my view, the financial crisis does not provide any evidence of a failure of modern economics. Rather the crisis vindicates the theory. Why do I say this? Because the research I have done shows that the crisis was caused by a deviation of policy from the type of policy recommended by modern economics. It was an interventionist deviation from the type of systematic policy that was responsible for the remarkably good economic performance in the two decades before the crisis. Economists call this earlier period the Long Boom or the Great Moderation because of the remarkably long expansions and short shallow recessions. In other words, we have convincing evidence that interventionist government policies have done harm. The crisis did not occur because economic theory went wrong. It occurred because policy went wrong, because policy makers stopped paying attention to the economics.

しかし、別の見方もある。金融危機は、経済学が失敗したという証拠には、まったくならないと私は考えている。むしろ金融危機は、理論の正しさを示したとも言えるのではないか。なぜそう言えると考えるのか?金融危機は、経済学が教えるところの政策から乖離したことによってもたらされたと、私の研究は示している。経済学の教えるシステマティックな政策から乖離し、そして金融危機が起こる以前の20年もの長きに渡って、めざましく好調な経済パフォーマンスを招くことになった、介入的な政策のことだ。経済は拡大を続け、調整らしい調整がほとんどが入らなかったため、経済学者達はその好調な期間を"Long Boom"と呼んだり、"Great Moderation"と呼んだりした。言い換えれば、それらは政府による介入的な政策が害になったという説得力のある証拠だ。金融危機は、経済理論が間違えたから起こったのではない。政策担当者が経済学に注意を払わず、間違った政策を実行した結果として発生したのだ。


ここでの「経済学が教えるところの政策(the type of policy recommended by modern economics)」とは、彼のルールのことを言いたいのだろう。つまり彼によれば、政策金利が低すぎたので、馬鹿みたいなブームが延々と続いて、結果的に大きなクラッシュを招いたと主張しているのだ。話の大筋には基本的に同意する。のだが、たったひとつ気持ちが悪い点がある。テイラールールだ。


為替レートは購買力平価に従う「べき」だ。株式の益回りは、国債利回りを上回る「べき」だ。PERは20倍程度である「べき」だ。原油価格は70ドル程度である「べき」だ。オプションの価格は、ブラックとショールズの方程式に従う「べき」だ。どれもこれも同様に気持ちが悪い。


誤解してほしくないのだが、それぞれの投資家が適正価格を推し測ろうとするための物差しとして、テイラールールは素敵だと思う。その目安を大きく逸脱する水準は、経済やリスクの価格に悪影響を及ぼすというのも、その通りだろう。しかし「適正な水準」は、その定義から、テイラーにもルールにも決められるはずはない。ここでいつもの持論に戻ってくる。あらゆる価格は、すべての市場参加者の総意によって決まるのが素敵だ。短期金利もその例外ではない。