そのヘッジファンドを、どれだけ組み入れるべきか

つい先日AQRのアスネスが書いた記事*1は非常に触発的で、乱暴に要約すると、比較はちゃんとやろうぜという話で、振り返ったヘッジファンドのベータから、その評価を試みようと。



こんなふうに見せられてしまうと、では実際にどのくらい我々はヘッジファンドを持っておきたいのか、どうしても気にならざるを得ない。もちろんリスクと見返りの話だが、理屈をこねよう。現在のポートフォリオと組み入れるヘッジファンドのリスクを、それぞれσeq、σhf、両者の相関係数をρとして、行列で書くとこんな感じだ。


\left(\begin{array}\sigma_{eq}^2&\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho\\\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho&\sigma_{hf}^2\end{array}\right)


二行二列なので、逆行列だって楽勝である。


\frac{1}{\sigma_{eq}^2\sigma_{hf}^2(1-\rho)}\left(\begin{array}\sigma_{hf}^2&-\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho\\-\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho&\sigma_{eq}^2\end{array}\right)


さて両者への期待と一緒に、マーコヴィッツの枠組みに放り込んで最適解だ。えい。


\frac1\delta{\Sigma^{-1}}{\Large R}=\frac{1}{\delta\sigma_{eq}^2\sigma_{hf}^2(1-\rho^2)}\left(\begin{array}\sigma_{hf}^2&-\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho\\-\sigma_{eq}\sigma_{hf}\rho&\sigma_{eq}^2\end{array}\right)\left(\begin{array}R_{eq}\\R_{hf}\end{array}\right)


えいえいと展開してみよう。


=\frac{1}{\delta(1-\rho^2)}\left(\begin{array}(R_{eq}-\frac{\sigma_{eq}}{\sigma_{hf}}\rho R_{hf})/\sigma_{eq}^2\\(R_{hf}-\frac{\sigma_{hf}}{\sigma_{eq}}\rho R_{eq})/\sigma_{hf}^2\end{array}\right)


どうですか、美しい形に見えないだろうか。日本語で言えば、ヘッジファンドへの配分は、あらかじめベータ分を差し引いた期待を、そのリスクで割ったものに比例すると。


そして頭のδは、実は評価できる。現在はヘッジファンドを持っていないわけで、現状からの追加的な組み入れにかかるリスク増分で、現在のポートフォリオへの期待を割ってやろう。


\delta=\frac{R_{eq}}{\sigma_{eq}^2}


書き換えよう。


=\frac{\sigma_{eq}^2}{R_{eq}(1-\rho^2)}\left(\begin{array}(R_{eq}-\frac{\sigma_{eq}}{\sigma_{hf}}\rho R_{hf})/\sigma_{eq}^2\\(R_{hf}-\frac{\sigma_{hf}}{\sigma_{eq}}\rho R_{eq})/\sigma_{hf}^2\end{array}\right)


いやー爽快。だから何感が半端ないが、たまにこんなふうに紙と鉛筆で遊んでみるのは楽しいのです。湿った空気の中。

仮想通貨の取引戦略ご紹介

さて今日は、比較的シンプルな仮想通貨の取引戦略をご紹介します。

  1. まず仮想通貨の価格の推移を見ます。とりあえずBTC、ETH、XRP、BCHの4つを取ってきます。
  2. 一週間前からの価格モメンタムを確認します。【今日のBTC÷一週間前のBTC】の要領です。
  3. 強い順に、4つを並べ替えます。
  4. 1番のものを15%買い、2番のものを5%買い、3番のものを5%売り、4番のものを15%売り、ポートフォリオをつくります。
  5. 明日にはすべてのポジションを解消し、新たに1)から繰り返します。


というストラテジーを、BCHの生まれた昨夏から、日々仮想的に繰り返した*1結果がこちら。



下落局面もなんのその、+60%のリターンです。もちろん、まだまだ様々色々あります。難しさもあります。
この先は有料です。投資とリスクに関するご相談、いつでも承ります。

預金獲得競争とリスクヘッジ - 未来の通貨の姿としての

簡単に言って、電子マネーはおいしい商売なわけです。そらそうですよ。JR東日本はスイカとか何とか称して、合計すると結構な前金を皆さんのサイフから集めてる。で、そうして預かったカネを、どこかに突っ込むわけです。すると利息が付く。ほら儲かった。


なので結局のところ、これ預金獲得競争になります。いつか電子マネーは、より高い金利を提示する競争に巻き込まれる。業法?そういう話は横に置いてさ、いまは理屈の話。


ただ預ける側からしたら、これスイカが潰れたら困るわけです。無理して高い金利を提示してるのかもしれない。だから、こんな感じの賭けに参加したくなる。


A) スイカは潰れる
B) 潰れない + the others


格好よく言うと保険だ。もちろん僕らは、スイカにカネを預けると同時に、Aを買っておく。すると、実際に潰れてしまった際には、ここから払い戻されて嬉しいわけです。


他方で、潰れないとき、僕らはAを買った分だけ損してる?いや、これ損じゃないのです。スイカが提示した「高い」金利から、そのうち幾らかをAを買う代金に回してる。


パンを買ってスイカで支払うとき、もちろん同時に保険も渡したくなる。きっと2つは、セットでマネーなんだ。だから僕は次に、Chopsticks*1の受け渡しを考えたくなります。

ソープとブラック - Men for All Markets

Back in 1967, I had taken a further step in figuring out how much a warrant was worth. Using plausible and intuitive reasoning, I supposed that both the unknown growth rate and the discount factor in the existing warrant valuation formula could be replaced by the so-called riskless interest rate, namely that which was paid by a US Treasury bill maturing at the warrant expiration date. This converted an unusable formula with unknown quantities into a simple practical trading tool. I began using it for my own account and for my investors in 1967. It performed spectacularly. In 1969, unknown to me, Fischer Black and Myron Scholes, motivated in part by Beat the Market*1, rigorously proved the identical formula*2, publishing it in 1972 and 1973.


A Man for All Markets: From Las Vegas to Wall Street, How I Beat the Dealer and the Market

A Man for All Markets: From Las Vegas to Wall Street, How I Beat the Dealer and the Market

In May 1974 I had dinner with Fischer Black in Chicago, where he had invited me to give a talk at the semiannual CRSP (Center for Research in Security Prices) meeting at the University of Chicago. Then in his thirties, Fischer was trim and tall, with combed-back black hair and "serious" glasses. Focusing intently on whatever finance topic was being discussed, he spoke articulately, logically, and concisely. His notes, compact and ultra-legible, reflected this. He would go on to become one of the most innovative and influential figures in academic and applied finance.

利上げを過小評価しない

主にFRBの話だが、もちろん一般論でもある。彼らは現在、ゆっくりと利上げしている。理由はシンプルで、いろいろ理屈をつけてはいるが、要するにビビっている。「市場と対話」しながら、上げていきたいと考えている。以前はどうだったかといえば、既に10年以上も経つわけだが、もうすこしトントンと上げていた。



さてカネを借りる側から見たとき、ゆっくりとした利上げは、どのように効くだろうか。答えはシンプルで、ゆっくりと苦しくなる。以前はどうだったかといえば、既に10年以上も経つわけだが、もうすこしトントンと苦しくなった。何が言いたいかといえば、トントンと苦しくなっても、ゆっくりと苦しくなっても、どっちみち苦しい。カネを借り(続け)ないわけにはいかないので、打ち手は特にない。


利上げを過小評価しない。今年のテーマのひとつである。

日銀コインに走る「質への逃避」

理屈や実務の、本物のプロフェッショナルでさえ、まだ誰も見たことがないものの話になると途端にピヨピヨしてしまう例を、しばらく前に立て続けに目の当たりにしたので、いつものように端的に突っ込んでみる。お題は中央銀行が仮想通貨を発行すると、というアレだ。

マサチューセッツ工科大(MIT)で経済学教授を務めるホルムストローム氏は「恐ろしい考えだ。強いて言えば、困ったことがなく順調な時期なら素晴らしいだろう。だが、もし危機が起きれば」、その安全とされる資産が相次ぐ銀行破綻をいざなうことになると主張した。
同教授によると、危機では大量の資金が市中銀行から流出し、中央銀行に押し寄せる。中銀は突如として市場の仲介業者の役割を引き受けることになるが、市中銀行の持つ情報の多くが中銀にはなく、銀行システムにどうやって資金を戻すのか解決困難な問題を解く必要が生じる。

中央銀行発行の仮想通貨、破滅いざなう−ノーベル賞受賞のMIT教授 - Bloomberg

日銀などの中央銀行による仮想通貨発行については「慎重に考えるべき点が幾つかある」と強調。「銀行券を代替する仮想通貨を発行した場合の銀行預金への影響を考慮する必要がある」ほか、「金融機関の取り付け騒ぎが起こる場合、モバイルやネットで非常に早いスピードで起こる可能性もあり、流動性危機が加速する可能性もある」との見方を示した。

インタビュー:ビットコイン、金融政策に影響ない=日銀・山岡氏 | ロイター


彼らは基本的に、同じことを言っているように思われる。つまり、いま使っている銀行が危ないと思ったら、我々は預金を日銀コインに移すと。そうすると、銀行は預金を引き上げられて困ってしまう。あるいは日銀には途端にカネが押し寄せて困ってしまうと。


困らねーよ別に。そうして日銀コインが買われた分だけ、日銀は銀行にカネを貸してやればよい。図示しよう、えい。


こうだったのが↓

         銀 行             家 計
     ------+------     ------+------
      貸 出|預 金       預 金|


こうなる↓

    銀 行         日 銀         家 計
------+------ ------+------ ------+------
 貸 出|預 金   預 金|コイン コイン|


日銀が、銀行と家計の間に挟まれただけだ。また言うまでもないことだが、銀行は新たな貸出にも特に困らない。貸した先が預金をコインに振り替えるとき、同額が日銀から銀行に預けられる。


聡明な読者の皆様は既にお気づきだと思うが、預金銀行と貸出銀行の分離みたいな話は、そもそも新しくもなんともない。ここでは預金銀行を日銀コインが独占するという、その特殊な状態に過ぎない。そう思うと、金融システムの未来についてイメージがシェイクされないだろうか。どのような預金銀行のあり方が望ましいだろうか。貸出銀行には、どのように多様が生まれ得るだろうか。


さて細かい話と思われるかもしれないが、そのとき僕は問いたい。なあ日銀よ、そのコインには利息を付けるんだろうなと。この図を睨みながら。

仮想通貨の投資リターンは、誰が払っているのか

仮想通貨の長期リターンは、1桁台前半とみている世界の実質生産の伸びに等しい(もしくは若干下回る)というのがわれわれの前提だ

ゴールドマン:仮想通貨はマネーの一形態として成功も-途上国なら - Bloomberg


このゴールドマンの見方がトンチンカン甚だしいと思うのは、常々指摘している*1ように、残念ながら仮想通貨を持っていても、金利を受け取ることはない。理由はシンプルで、金利を払う者がいないからだ。では、あるいは有価証券の投資リターンは、誰が払っているのか。もちろん、主として資金を調達する発行体である。配当であれ返済であれ、結局のところ同じことだが、100円を返す(だろう)約束は、それが未来であって不確実であることを考慮され、100円未満しか引っ張ってくることはできない。言い換えれば、リスクに対する見返りは、リスクを渡す側が払う。宇宙の法則である。


だとすれば、ビットコインのリターンは何によってもたらされているのか。それは一体、誰が払っているのか。ここのところ、なんとなく肌で感じられている人は多いかもしれない。あるいは実際に払っている人も、少なくないかもしれない。これ以上払うのをやめる方法が、ひとつだけある。知ってるよね。