長期金利上昇時の対応マニュアル

あるいは国債価格下落時と表現した方がキャッチーだったかもしれないが、ともあれ財政破綻だとかハイパーインフレーションだとか、いきなり随分と向こう側を攻める論調ばかりを見かけるので、もうすこし手前のマイルドなところ*1を、そして対応策について簡単に考えてみたい。

長期金利とは何か

さて長期金利は文字通り、金を借りる側にとっても貸す側にとっても同じ、事前に決める期間中の金利のことだ。政府が借りる水準で表現されることが多いが、僕らが金を借りようと思えば、ほとんどの場合は、そこから更に金利を上乗せされてしまう。長期金利の水準が変われば、今後の貸し借りだけでなく、もちろん既に金を貸したり、借りたりしている連中にも影響は及ぶ。すぐに与える影響は、そちらの方が大きいくらいだ。どんな影響か。今ならもっと金利が取れるのに、前もって小さく決めちゃった借金の価値は、小さくなってしまう。確認しよう。長期金利が上昇することは、(事前に金利を決めて)貸している金の価値が、借りている金の負担が、下落するのと同じことだ。

家計の金融資産

僕らは誰にどんな形で、金を貸しているだろうか。天下り的で乱暴だが、保険やら定期預金やら、普通預金やら現金やら、要するに流動的な資産は、全部それだと思ってよい。当然そいつらは、金融機関の側から見れば、借りている流動的な負債であって、しかし連中はその先で、その小さくない部分を政府に貸している。国債を買っているわけだ。そしてここで、やっと長期金利の上昇だが、もちろん国債価格の下落と同義である。金融機関が保有する資産としての国債は、徐々に下落する。損が出るわけだ。あるいはあらかじめ予期した勘のいい連中は、前もって国債を売るかもしれない。そのことは当然、国債の下落をズルズルと引っ張り、逃げ遅れる連中を襲う。あなたの預けている金融機関は、機敏だろうか。

逃げるコスト

よく考えてみると、あなたの保険やら定期預金の価値も、明示的ではないにせよ、下落の最中だ。そりゃそうだ。今ならもっと金利が取れるのに、前もって小さく決めちゃった受け取りの価値は小さい。あらかじめ予期する勘のいい我々ならどうするか、言うまでもないだろう。前もって当該期間中の金利を決めない、「その日暮らし」の普通預金やら現金に逃げておくのだ。保険が必要なら、掛け捨てを検討したり、状況が落ち着いてから入り直せばよい。もちろん実際に逃げる際には、解約のペナルティには気をつけよう。逃げたい損失よりも大きな御布施をするのは馬鹿げている。言うまでもないことだが、これから保険やら定期預金を考えるのなら、解約のペナルティの小さなものを選びたい。自分から背水の陣を引く理由など、どこを探しても見つからない。

では金融機関は

さて、ここは金融機関のプロフェッショナル向けなので興味のない方は飛ばして下さい。あのね、だから保険とか定期預金の見合いで、長期債を買っちゃ駄目なんですよ。いつでも解約できる商品のデュレーションは短い。短期の借金を繰り延べたところで、長期の借金にはならない。一方で解約のペナルティは、常務や役所はいい顔をしないかもしれないが、利益の源だ。手数料には騒ぎ立てる評論家も、ここにはノーマークだったりすることも少なくない。株主のために、じゃんじゃん設定しよう。もちろん、正当化する理屈や顧客への説明を忘れちゃ駄目ですよ。それから、おい日銀。お前が長期債を買ったらおかしいだろ。資産は減っても負債は減らない。市中の銀行に偉そうなこと言う前に、自分の貸借考えてみろっての。預金先は動かせても、紙幣はどうしようもないんだから、ちゃんとやれよ。まったく。

攻撃的な計画(上級者向け)

政府の借りる金利が高まれば、当然のことながら、僕らの借りる金利も高まってしまう。政府は税金を取るが、僕らの個別の信用リスクが上乗せされる前の、下駄の部分が高くなってしまうのだ。そのことが事前に予想されるとき、前もって金を借りておく行動は自然だ。もうすこし説明しよう。言い換えれば、国債の価格が下落するとき、前もって借りておいた固定金利の負債の価値は軽減される。イエス、フラット35のことだ。もちろん、こいつは上級者向けなので、気軽に手を出すと火傷する。アグレッシブな連中は、プロフェッショナルや外国人も含めて、これまで「逃げない」保険や定期預金に踏み潰され、皆ボロボロの黒焦げにされた。くれぐれも、気をつけなよ。

*1:もちろんワイルドへの道である場合も多い