自社株買い及び自国通貨買い介入の定理

簡単のために、負債はなく、現金だけ持っている会社について考えよう。特に価値のない商売のみ、他に抱えていると思っていただいても差し支えない。もちろん、そんな仕事で給料が取れるはずもないが、この点について後で拡張することは容易である。


現金
10,000円
株式
100株


このバランスシートには見えない、さまざまな要因を小さなものと考えるとき、おおよそ株価としては 10,000円 / 100株 = 100円 を目安にしたくなる。一方で、何らかの感情的な理由で市場には売り注文が殺到し、90円で取引されていたとしよう。そのとき僕が経営者なら、自社株買いを発動したくなる。思い切って発行済株式数の半分を買ってしまえ。えい。


現金
5,500円
株式
50株


どうだろうか。先の目安は 5,500円 / 50株 = 110円 に変化した。つまり一株あたり純資産は増加している。自社株買いが、ある意味で「利益」を生み出したのだ。これでも株価が上昇しなければ、更に残りの50株を買い戻すと想定してみてほしい。現金を残したまま、すべての株式が消えてしまう奇妙な事態が訪れることになる。


簡単のために、外貨準備だけ持っている中央銀行について考えよう。特に価値のないジャンク国債のみ、他に抱えていると思っていただいても差し支えない。もちろん、そんな状況を国民が喜ぶはずもないが、この点について後で拡張することは容易である。


外貨準備
400ドル
紙幣
30,000ルーブル


このバランスシートには見えない、さまざまな要因を小さなものと考えるとき、おおよそ為替としては 30,000ルーブル / 400ドル = 75ルーブル を目安にしたくなる。一方で、何らかの感情的な理由で市場には売り注文が殺到し、83ルーブルで取引されていたとしよう。そのとき僕が総裁なら、自国通貨買い介入を発動したくなる。思い切って紙幣の半分を買ってしまえ。やあ。


外貨準備
220ドル
紙幣
15,000ルーブル


どうだろうか。先の目安は 15,000ルーブル / 220ドル = 68ルーブル に変化した。つまりルーブルあたり外貨準備は増加している。自国通貨買い介入が、ある意味で「利益」を生み出したのだ。これでもルーブルが上昇しなければ、更に残りの15,000ルーブルを買い戻すと想定してみてほしい。外貨準備を残したまま、すべての紙幣が消えてしまう奇妙な事態が訪れることになる。


今日のテーマが伝わってきただろうか。市場で取引されるバランスシート右側の価格が、左側に抱える(評価性の)資産と比較して安いとき、買い取ることによって「利益」を生み出すことができる。もちろん価格にとっては「修正」要因だ。これが自社株買い及び自国通貨買い介入の定理である。あまり教科書では見かけないかもしれないが、資本主義の土台を構成する重要な定理のひとつなので、是非覚えておいてほしい。