コングロマリット・ディスカウントの幾何的な表現
厳選に厳選を重ねても、エイエイと適当に選んでも、ほんのすこし株式を組み合わせるだけで、合計した値動きは急速に、いわゆる市場ポートフォリオのそれに近づいてしまう。ちょっとでも株を触ったことがある者なら、誰でも知っている基本的な事実である。「合計する」レイヤーを、株式から事業に移してみたところで、そうした性質は変わらない。ある企業が追加的に事業を買収したり、あるいは新規に始めるとき、そこに組み合わせの妙がなければ、その全体は急速に平凡なものに近づく。
平凡が悪いと主張したいわけではない。しかし平凡に平凡を追加することの妙は存在しないわけで、当然のことながら、その分だけ株主は大きなプレミアムを要求することになる。つまり株価は安くなければ買う気が起きない。図示しよう。
緑色のハンガーで表現されるところの、単位リスクあたりのプレミアムに注目すれば、その大きさは、市場ポートフォリオとの相関によって相対的に評価される*1とCAPMは言う。我々のチャレンジのすべてを合計することで赤いベクトルが構成されるわけだが、ひとつひとつの青いチャレンジに要求されるプレミアムの大きさは、そこに射影されているというわけだ。影が長いほど、もちろん株価は押し下げられてしまう。
21世紀の資本家にとって市場ポートフォリオは、わずか数クリックで手にすることができる、極めて入手が容易な投資先である。言い換えれば、事業ポートフォリオなどと称して平凡な組み合わせを提供したところで、株主はちっとも嬉しくない。平凡な利益で、経営者が報酬を期待できる理由*2もない。我々がソニーに求めるのは、単なる金融や不動産ビジネスの追加*3でなく、独自のチャレンジである。
*1:{E(ri) - rf}/σi = ρim{E(rm) - rf}/σm
*2:http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20091225/p1
*3:http://www.bloomberg.co.jp/bb/newsarchive/N4IHBI6TTDS201.html