ベータのスペクトル分解

こうして市場参加者が決める*1基底の眼鏡で世界を眺めるとき、僕らのベータはどんな様相を見せるのか、何よりも気になってしまう。n個の固有値 λ12,...,λn は、対応する固有ベクトルつまりリスクを表現するポートフォリオにかかる分散を表現し、それぞれの固有ベクトルに対する銘柄iのエクスポージャを i1,i2,...,in 市場ポートフォリオmのエクスポージャを m1,m2,...,mn とするとき、ベータは以下のように分解される。


βi = (i1m1λ1 + i2m2λ2 + ... + inmnλn) / σm2


シビれずにいられない。銘柄iの経営者は、いずれかのリスクのエクスポージャを投資家に負担させてビジネスに立ち向かうわけだが、自分の報酬から差し引かれるところの、要求されるプレミアムの大きさは、1)よりλの小さな、つまりマイナーなリスクを向くほど、2)よりmの小さな、つまり他の投資家が負担していないリスクを向くほど、小さくなると言うわけだ。これが神の設計した資本主義だ。


小口化された投資が日に日に扱いやすくなる昨今では、投資金額よりも、単位リスクあたりの世界で物事を考えたくなるかもしれない。既にベータは、内積にしか見えないわけだが、ここで単位リスクあたりのプレミアムは、与えられた銘柄iのベクトルと、市場ポートフォリオmのベクトルのなす角の余弦*2である。


とても嬉しい。ずっとこいつを探してきた。CAPMと同じように、本質的に実証は不可能だし、どんなふうに実際に使ってよいのかも、正直に言えばよくわからない。ただ、景色は劇的に変わった。それだけで今は十分だ。

*1:主に未来のオプション市場だ

*2:http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20110819/p1