悲観的なメッセージとしての議員先生による「国債大丈夫」論

国債の格付けと実際の信用度 - 中村てつじの「日本再構築」
http://d.hatena.ne.jp/NakamuraTetsuji/20121002#p1

アメリカや日本は、自国通貨建てで国債を発行しているので、急激に債券の価格が下がる(=金利が暴騰する)というようなことがあっても、中央銀行が債券を買い取ることによって金利を下げる(=債券の価格を上げる)ことができます。


全然無理です。財政の規律を取り戻さないまま、日銀に債券を買わせて乗り切ろうというのなら、そのとき我々はさらに売り浴びせる。あるいは日銀が飲み込む千兆円の日本国債が、黙っていれば暴落せざるを得ないゴミなら、こんどは日銀が発行する紙幣や、その当座預金がゴミと見做されるわけであって、そうなれば我々は円を売り浴びせる。いわゆるハイパーインフレーションと円の暴落は、商売や住宅のための長期の貸借だけでなく、日常的な生活の決済すら危険に晒してしまう。これが理屈。

そうして「急激に債券の価格が下がる」ことを「急激に紙幣の価値が下がる」に置き換えても、ちっともロクなことが起きないという経験が「中央銀行の独立性」を生んだのであって、現代のルールから「国債を買い支える」ことは事実上不可能です。この文脈で日銀法改正を持ち出そうというのなら、そういう議員の先生は最近少なくないようですが、その意味について、よくご理解いただきたい。当然のことながら、債券には売り材料です。

日本国民が円貨を売って外貨を買えば、その反対に、外国居住者が外貨を売って円貨を買っているという事実があるということを忘れています。円貨と外貨の為替取引がなされると、円貨が(日本国内から:正確には円経済圏から)減るわけではないのです。


忘れていません。そもそも取引が交換であることは自明で、問題はその価格、つまり交換比率なわけです。円を売りたいひとが増えれば、それまでは80円払えば1ドルを買えたところを、160円払う必要が出てくる。前述のように暴落する国債を日銀が買い支えようとすれば、こんどは800円払う必要が出てくる。そうなれば円の貯金で買えるものの量は、たちまちに失われてしまう。エネルギーや資源、食糧の大きな部分を輸入に頼らざるを得ない状況下で、他国の通貨が強まるならともかく、自国の信用が失われる形で円が売られれば、輸出産業にさえ打撃を与え、これもまたロクなことが起きない。

自国建て国債の場合には、それを売って得た自国通貨で買えるモノと言えば、一番信用が高いのは国債ということになります。

自国通貨建てで発行している日本国債金利が上がるためには、日本国債を売って他のモノ(社債・融資・不動産・株など)を買った方が確かで儲かるというような「経済状況の好転」が条件となるのであって、格付け会社の格付けではないわけです。


残念ながら「経済状況の好転」は、国債が売られるための唯一の条件でないのは、「国債」はひとつではない。以前にも、どこかのニャンコ先生が似たような誤解*1をされていたが、我々は「より短い国債」を買うことができる。国債が信用ならないと思えば、すこしでも安心のために、より早く償還される国債に乗り換える。そうなれば、もちろん長期金利は押し上げられるわけだが、イールドカーブの遠い方から立ち上がってきてしまう。このことが恐ろしいのは、よく言われるように金融機関が損失を抱えるだけでなく、社債を発行して資金調達しようという商売にとって、債券市場は使いにくくなってしまう。フラット35を利用して住宅を買おうという人々にとって、固定金利のローンは使いにくくなってしまう。今よりもさらに、不景気に向かざるを得ないわけだ。


議員先生、増税は僕も勘弁ですが、財政はちっとも安泰じゃありません。お金は簡単には生まれてこないのです。

*1: