微分アプローチ

「公正価値会計の経済的帰結」という日本銀行金融研究所のペーパーを、 [twitter:@fujisakitatsuya] の呟き*1で知ったのだが、触発されて書いてみたい。というのも、某所で会計について講義させていただくことになり、この点について、とても興味を持っているわけです。

しかしながら、公正価値に基づく資産負債アプローチこそ経済学に根拠を持つ会計観であるという主張は、ストック価値とはフロー価値を資本コストで割り引いた派生的存在にすぎないという中世公正価格論以来の効用価値説の論理的帰結に照らして根拠薄弱である。さらに、投資意思決定に有用な会計数値を目指すというのであれば、公正価値評価はあくまで手段であって目的ではない。

http://www.imes.boj.or.jp/research/abstracts/japanese/11-J-04.html


さて投資の消費性な観点からは、株価と純資産との関係に注目したい*2わけだが、簡単のために、あと一期で解散が決まっている会社について考えてみよう。コンセプトから入るが、実際の会計アイテムが、それぞれどんなふうにマッピングされるかについて、突っ込みを入れたいと感じられる皆様におかれましては、ご自身でトライされ、私に教えていただけますと幸いです。さて、期初の純資産は、資産と負債の差分として定義されると考える。


資産負債
純資産


一方で投資のために、現在の時価総額の目安について考えようとするとき、この期に発生するであろう収益と費用*3についても、考慮に入れざるを得ない。もちろん商売の未来は誰にも見えておらず、チャレンジは常に不確実であることも含めて、それらを割り引く必要があるわけだが、一般化は後回しにして、とりあえずRと置いておこう。


資産負債
費用/(1+R)
株価(0)
収益/(1+R)


見比べてみるまでもなく、純資産と時価総額との差は、見積もられる収益と費用の差を、Rで割り引いたものになる。さて期が終えて、めでたく予想通りの収益と費用が発生し、その差分が利益となったとしよう。もちろん純資産に繰り入れるわけだが、同時に、特段の出入りがなかった*4資産と負債には利息Rを付けよう。また、これにて商売は終了し、解散して残ったお金を株主に返すので、当然のことながら、期末の純資産と時価総額とは一致しているはずだ。


(1+R)資産(1+R)負債
費用
株価(1)
収益


実に美しいと思われないだろうか。株価がどのように変化したのか、一目瞭然だ。


株価(1) = (1+R)株価(0)


あまりにも能天気な事例だと思われるかもしれないが、ビジネスは一期で終わらず、未来永劫続くと考えられる場合*5にも、容易に拡張可能である。あらゆる取引をハンドルしながら、収益と費用を割り引くRと、資産と負債に付利されるRとを分けることも可能だ。アイテムによってリスクの趣は異なるはずで、それぞれを割り引くRiは、世界の全体Rmとの関係によって評価されると考えるのが僕らのCAPMだが、各々のベータの線形結合として、株価にかかるプレミアムが決まる*6と思えば、APTそのものでもある。


現在の資産や負債すら、すべて将来の収益や費用を割り引いたものだと考えるとき、あるいは積分アプローチと呼ぶほうが適切かもしれない。いずれにせよ、資産負債が先か、収益費用が先かという問いは、この枠組みでは意味を持たない。微分積分は、卵と鶏の関係にあるからだ。

*1:http://twitter.com/#!/fujisakitatsuya/status/62589955452571649:twitter

*2:東京電力の問題への意識は強い

*3:用語が気持ち悪い方は、「インフロー」「アウトフロー」と読み替えて下さい

*4:お気づきだろうが、例えば減耗する資産は、収益またはインフローの現在価値と考えざるを得ない

*5:id:equilibrista:20090416

*6:id:equilibrista:20101014:p1