アクティブ株式運用のためのポートフォリオ構築(下)

さて、見通しの表現の仕方についても考えてみたい。トヨタに強気のとき、トヨタだけを買い増すのは素直な行動にも思えるが、実はもうすこし検討する余地があると思うのだ。

見通しのポートフォリオ

株式の動向は、程度の差こそあれ、大抵は互いに連動しているが、それは、投資家がいつでも複数の投資先を比較検討することによる必然の結果だ。そんなとき、トヨタを買い増すアクションと、TOPIXそのものを買い増すアクションがもたらす結果は、やはり必然的に似てしまう。例えば、皆が単に株式市場に楽観的になるとき、多くの場合トヨタの株価も同時に上昇する。このとき、トヨタを買い増したアクションについて、見通しがもたらした成功と(単に全般的に株価が上がった)結果オーライとの区別は、あまり明らかでなくなってしまう。別にいいじゃないかと思うかもしれないが、「意図しない勝ち」は、同じ理由で「意図しない負け」を招く。要するに、何らかの想定しない理由で株式市場が下落するとき、我々のトヨタに関する見通しは「外れた」ことにもなってしまう。具体的に、トヨタのどの部分に対して、どんな見通しを持つのか。その点を明確にし、より切れ味の鋭い表現を探ることで、筋肉質なポートフォリオをつくりたい。


能書きが長くなってしまったが、具体例でいこう。株式市場全体の動向も、自動車製造業の動向も、そしてトヨタに固有の事情も、当然のことだが、すべてトヨタの株価を左右する。そして我々が、例えばリコール問題のように、トヨタに固有の事情に着目した見通しを持ち、前の二者について特段の見通しを持たないとき、トヨタだけを買い増すよりも、よりよい表現が存在する。トヨタを買って(増やして)、同時にホンダを売る(減らす)のだ。このようなポートフォリオを持つことで、例えば(特段の見通しを持たない)株式市場全体が下落するときや、(特段の見通しを持たない)自動車製造業が上昇するとき、トヨタの損益をホンダの損益が相殺することになる。ホンダも、株式市場全体の動向や、自動車製造業の動向に、トヨタと似たような影響を受けるからだ。一方で、ホンダよりもトヨタの株価が(その固有の事情によって)上昇するとき*1には、我々は利益を手にすることができる。素敵じゃないか。


同じようにNTTに固有の事情に着目し、強気の見通しを持つとき、同時にドコモを売って、また別の見通しのポートフォリオを持とう。先日とは順序が入れ替わるが、出発点としてのTOPIXに対して、最初の見通しと、二番目の見通しを加えて、自分のポートフォリオが完成する。こいつは比較的頑健だ。少なくとも、株式市場全体の動向や、自動車製造業の動向、おそらく為替の動向にも、比較的左右されにくい。こいつが(TOPIXに)勝つときは、見通しに沿った形で市場価格が変化するときで、こいつが(TOPIXに)負けるときは、見通しとは異なった変化が起きるときだ。少なくとも、そうなるように努めた。意図する勝ちと意図する負け、プロフェッショナルなら、いずれが実現しようとも受け入れる必要がある。

  TOPIX 見通し1 見通し2 自分(+)
トヨタ 30% 10% 0% 40%
ドコモ 20% 0% -10% 10%
NTT 17% 0% 10% 27%
三菱UFJ 17% 0% 0% 17%
ホンダ 16% -10% 0% 6%


個別の各銘柄に対する見通しは同じだが、そもそもTOPIXを出発点としない場合は、どのようなポートフォリオになるだろうか。例えば、そういう株式市場全体に対するエクスポージャは、どこか別の勘定で、先物やらETFやらを売ったり買ったりして調整するから、要らないよと。あなたのマニアックな見通しだけ表現してよと。そういう商品が、僕の人生のバランスシート全体*2にとって便利なんだよと、そういった場合にオファーすべきポートフォリオだ。馬鹿みたいにシンプルだが、以下のようになるはずだということに、同意いただけるのではないか。

  銀行預金 見通し1 見通し2 自分(+)
トヨタ 0% 10% 0% 10%
ドコモ 0% 0% -10% -10%
NTT 0% 0% 10% 10%
三菱UFJ 0% 0% 0% 0%
ホンダ 0% -10% 0% -10%


こんなとき戦う相手は、まず無リスクの金利、例えば銀行預金だ。リスクのない、特に株式は何も持たない状態から、そして先と同じように同じような見通しを加え、組み合わせていく。それらの足し算で表現されたポートフォリオが、そのまま自分のポートフォリオになるわけだ。この記事を読まれる前に持たれていたイメージと、似ているだろうか。長嶋巨人との違いを、感じられるだろうか。

パフォーマンス要因分析

当たり前の話だが、投資は結果のために行うもので、結果から逃げることなど不可能だが、そこから明日への材料すら探し出そうとする力は、必ず将来の糧を生む。と思いたい。結果として金を得たとか失ったとか、大雑把には上手くいったとか駄目だったとか、そういうレベルを超えて、一体何がどのように上手くいったのか、どの判断が結果的に失敗となったのか、具体的に知ることは、とても大切だ。


とはいえ我々は、既にそれぞれの見通しを具体的な形で表現し、それらを組み合わせて最終的なポートフォリオとしている。なので、パフォーマンス要因分析はとてもシンプルだ。それぞれの見通しが、それぞれにどのような効果となったのか、省みればよい。実際に保有していたのは、もちろん上記の表で言えば最も右の列、「自分」のポートフォリオになるわけだが、それらを構成しているのは、1)戦う相手と、2)複数の見通し群の組み合わせである。例えば2倍に儲かってウハウハな結果のとき、出発点としての戦う相手の動向から、どれだけがもたらされたのか、また複数の見通しから、それぞれに、どれだけがもたらされたのか。すべての列を「単独のポートフォリオとして持っていたら」と考え、それらのパフォーマンスを覗いてみよう。複数人からなるチームで運用するときには、見通しを表現するポートフォリオの数は、縦の列の数は、きっと少なくないに違いない。それらはそれぞれに、どのような成績を生み出したろう。はじめから見通しを具体的に表現してさえいれば、それぞれのもたらした成績は残酷なまでに明らかだが、むしろ結果だけを見て、仲間を責めすぎないように気をつけたい。反省はいつも、未来のために*3あるものだ。


もちろん、見通しの具体化が思い通りに表現し切れなかったケースや、見通しのポートフォリオにおけるリスクの大きさや配分を間違ったケース、あるいは最初に戦う相手と寄り添うことに失敗したケースもあるかもしれない。潜在しているが、未だ実現しておらず、気づいていないリスクもあるだろう。それらの結果は、運次第でよい方にも悪い方にも効く。そういった連中を探す考察は、次回の作戦に際しては、新たな見通しとして、我々の頭の中にある列の数を増やす場合もあるかもしれない。ヒントは、いつも足下に転がっている。


こうしたアクティブ運用とポートフォリオ構築の枠組みは、株式に限らず、債券だろうと、通貨だろうと、基本的な考え方はまったく同じである。どこにどんなリスクがあるのか、そのそれぞれに対して、どんな見通しを持つのか。そうしたリスクの選別に誰もが真剣に取り組むとき、取引される価格は、より効率的なそれに近づき、資金を調達してチャレンジする経営者を助けるだろう。もちろん投資家としての自分も、消費者としての自分も、そのとき今よりも幸せに違いない。均衡に思いを巡らせれば、いつだって未来は、眩しいくらいに明るい。というわけで、久々に長文を書きましたが、アクティブ株式運用におけるポートフォリオ構築、いつでもご相談を承っております。

*1:もちろん、どちらの「固有の事情」も、考慮に入れる必要がある

*2:id:equilibrista:20100723:p1

*3:一貫したコンセプトなら、それは実現したネガティブなリスクをも正当化するはずだ