アクティブ株式運用のためのポートフォリオ構築(上)

「最強のチームをつくるためには、最強の選手を集めてくればよい」


というシンプルな発想は、長嶋巨人の例を挙げるまでもなく、実際のところ、あまりうまくいかない。期待のアイツが怪我をしてしまったり、思わぬチームワークの綻びが出て、当初描いていたような成績が残せない場合も多い。最強の銘柄を集めてきたものが、最強のポートフォリオに違いないと思いたい気持ちをグッと抑えて、そもそも「最強」とは何か、またチームワークとは何かと考えるとき、アクティブ株式運用にも、必然的に戦略が生まれてくる。

誰を相手に戦うのか

「少数精鋭の最強チーム」が、いくつかの銘柄の寄せ集めのことだが、あまりよい成績を収めないとき、相当に著名なベテランでも、相当に筋が通らない言い訳をすることがある。


「長期的な成長を考える中で、TOPIXはあまり意識していない」


ブームに乗って吹き上がる市場に追いついて行けないとき、腰を据えて遠くを見つめる(都合のいい)視点を要求する一方で、逆に下落時には、株式市場全体が売られる中で、「相対的には踏みとどまった」事を主張したりするのだ。どこがズルだか、おわかりだろうか。上昇時には、東証株価指数と比較されることを嫌い、無リスクの金利、例えば銀行預金と比較して欲しいと、とにかく増えりゃいいんだろと、暗に主張する一方で、ポートフォリオの価格が下落するときには、他の株よりもマシだと考えてほしいとプッシュする。そう、後出しジャンケンだ。


この後出しジャンケンを事前に認めるとき、誰でも確実に勝てる方法がある。手持ちの金の半分だけ、TOPIXを買っておくのだ。そして上昇しているときには、銀行預金に勝ってるんだから文句あるのかと言い、下落していれば、TOPIXよりマシなんだから文句あるのかと言う。まさに無敵。で、当然のことだが、ちっとも投資家の役には立っていない。金の半分は使っておらず眠ってるんだから、その分は返して欲しいと誰しも思うだろう。もちろん運用報酬もだ。


そうやって後出しジャンケンしたい気持ちは、わからなくもない。実際のところ、TOPIXは強い。途方もなく、時に絶望的なほど強い。世界中の投資家の、合作みたいなものだからだ。そいつに勝って、その中から自分の給料まで貰おうという重量級の野望を支える心が、途中で折れてしまう弱さだって、理解できなくもない。とはいえプロフェッショナルは、顧客にも自分にも、誠実でありたいじゃないか。でなければ結局のところ、長い目で見れば、信頼を失ってしまう。


そのためにはまず、誰を相手に戦うのかについて、事前に宣言することだ。もちろんそれは、TOPIXでも、MSCIでも、円LIBORでも、それらの組み合わせでも構わない。相手として適正である要件は、1)あらかじめ定義されていて、2)投資可能で、3)投資家にとって便利なことだ。例えば「毎年2倍になる」という目標は、野心としては別に構わないが、2)の条件を満たさず、実際に戦う相手としては夢想的に過ぎる。また「金庫に入れとくよりマシ(=ゼロ)」という目標には、単に銀行に預けることで、常に勝ち続けることができるが、3)の条件を満たさない。


「預かった金を自由裁量で投資することで、より柔軟に環境の変化に対応しつつ、長期的な成長を追求したい」などと、もっともらしい主張をする運用者は、大抵3)について考えていない。アンタが預かっている金は、その投資家のポートフォリオの一部に過ぎないこと*1を、よく理解していないのだ。銀行預金も、自宅も、住宅ローンも、将来の年金も、自分のビジネスのリスクも、個人は抱えている。それらをまったく顧みず、預かった金だけをいじくるヘッジファンドが、真の意味で柔軟な対応なぞ、可能であろうはずもない。顧客にとって利便性が高いのは、あらかじめ商品性を示すことだ。その第一歩が、戦う相手の定義なのである。

どのようにリスクが生まれるか

さて、相手が定まったら勝つための戦略を練ろう。まずは簡単のために、TOPIXを相手にする場合を考えてみる(銀行預金を相手にする場合は、後に触れる)。簡単のために、世界には5銘柄しかないと考えてみてほしい。で、自分はトヨタに強気だ。他の株に興味はないが、トヨタだけは伸びると思っている。だから買う。表にしてみよう。

  自分 TOPIX 差分(-)
トヨタ 100% 30% 70%
ドコモ 0% 20% -20%
NTT 0% 17% -17%
三菱UFJ 0% 17% -17%
ホンダ 0% 16% -16%


自分はトヨタのみを買っているが、TOPIXは5銘柄の組み合わせから成っている。その後、トヨタもホンダも、ドコモもNTTも、株価はまったく変化せず、三菱東京UFJ銀行だけが上昇したとしよう。ポートフォリオに何が起きるだろうか。馬鹿みたいな話だが、自分のポートフォリオには何も起きない。三菱東京UFJ銀行は持っていないからだ。一方で、TOPIXは上昇する。三菱東京UFJ銀行を含んでいるからだ。ああ、負けてしまった。銀行株以外には、何も変化は起きなかったというのに。いや、だからこそ、負けてしまったのだ。つまり例えば、実はこんなポートフォリオを組むべきだったのではないか。

  自分 TOPIX 差分(-)
トヨタ 40% 30% 10%
ドコモ 20% 20% 0%
NTT 17% 17% 0%
三菱UFJ 17% 17% 0%
ホンダ 16% 16% 0%


僕がここで何を言いたいか、ご理解いただけたろうか。そう、元のポートフォリオでは、自分はトヨタに強気で、トヨタを買っていたはずだった。が、知らず知らずのうちに、TOPIXを相手に考えた場合には、差分を考えた場合には、実は三菱東京UFJ銀行を売っていたのだ(そして他の銘柄も同時に売っていた)。ここでのポイントは、たったひとつ。まず戦う相手と寄り添うことが、そのことのリスクが最小化されたスタート地点なのだということ。そして、そこからどのように、どれだけ離れていくかが、僕らにとってのリスクなのだ。トヨタに強気なら、まずTOPIXをそのまま買って、そこからトヨタを買い足す。これ。え、レバレッジになってる?細かいことは後回しでお願いします。

*1:id:equilibrista:20100630:p1