ギャンブルを冷徹に戦う

配当160億円所得隠し 競馬予想プログラム会社に指摘 東京国税局 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/crime/091009/crm0910091057006-n1.htm

関係者によると、同社は出走馬の血統や天候など各データを使って独自の競馬予想プログラムを開発し、結果を予想。ただ、実際には倍率に応じて掛け金を変えた上で、ほとんどの組み合わせの馬券を購入。1レースで数億円を稼ぐなど巨額の利益を得ていたが、税務申告していなかったという。


「倍率に応じて掛け金を変えた上で、ほとんどの組み合わせの馬券を購入」するのは、極めて合理的な判断だ。よりシンプルな例で考えてみよう。仲間内で、年末の紅白歌合戦の優勝予想について、1口1円で参加者を募る。とりあえず簡単のため、参加費はゼロとする。紅組に60口、白組に40口集まっているとき、浮動するオッズはそれぞれ1.7倍、2.5倍とついているはずだ。現在合計の100円を、60口で割れば1.7円/口、40口で割れば2.5円/口。こうしておけば、払い戻しが足りないことも余ることもない。

出走 オッズ 口数
紅組 1.7 60
白組 2.5 40


さて、参加者としての自分は判断に迷っている。紅組が優位な気はしているものの、100%の確信はない。どのようにベットすべきだろうか。まず2つの極端から入ろう。紅組が絶対だと思うのなら、自分の掛け金10口をすべて紅組に賭ければよい。このときオッズは、110円/70口=1.6倍となるが、「紅組が絶対勝つ」のだから、6円は丸儲けである。どちらが勝つのかまったくわからないにもかかわらず、課長の機嫌を損ねないためにゲームへの参加を断れないとき、6口を紅組へ、4口を白組へ賭ければよい。このときオッズは、紅組が110円/66口=1.7倍、110円/44口=2.5倍と変化せず、またどちらが勝っても、ちょうど10円が戻ってくる。リスクはゼロである。


「すこしだけ紅組が優位な気がする」とき、取るべき行動は、おそらく両者の中間のどこかにあるはずだ。例えば8口を紅組へ、2口を白組へ、といった具合だ。もちろん口数は結局のところ、紅組優位への確信の深さと、賭けの大きさによるリスクとのバランスで決まる。「一点買い」のロマンは、リスクのサイズなんてものを顧みない潔さにあると思うのだが、しかし、その漢な姿勢は一般に、宵越しの金は持たないロマンへと変貌しがちだ。セコい我々は、勝つために全力を尽くそう。


賭けの選択肢が増えた場合でも、考え方は同様だが、攻めの自由度は増える。今度は、プロ野球6チームの優勝予想を考えてみよう。あるべき出発点は先の例と同じ、まずは他人と同じ行動を取ることだ。表示されているオッズから、これまでの皆の掛け金の投入比率を割り出してみる。この投入比率は、そのまま暗示されている勝率でもある。これをよく眺めて、違和感のある部分を自分なりに置き換えてみるのだ。例えば「横浜はどう考えてもありえねー」と思うのなら、パッシブには5%の資金を投入するところを、もっと減らしてみる。「ヤクルトが割安に見える」のなら、パッシブには10%の資金を投入するところを、もっと増やしてみる、といった具合に。

出走 オッズ 投入比率 自分の見通し 乖離
巨人 2.5 40% 40% 0%
中日 3.3 30% 30% 0%
ヤクルト 10 10% 15% 5%
阪神 10 10% 10% 0%
広島 20 5% 5% 0%
横浜 20 5% 0% -5%


パッシブな購入からの乖離が、自分のとっているリスクになる。こうして眺めてみると、一点買いが、どのようなリスクを取ることを意味するのか、より鮮明に理解できるはずだ。勝つための原則は簡単で、意図しないリスクを減らすこと、そして意図するリスクを、分散を考慮しつつ取ること。競馬のベット*1のように、選択肢が劇的に増えたところで、構造は何ら変わらない。とはいえ先のロマンに見られるように、ギャンブルの喜びは勝つことだけでない。つまり、この投資には消費性がある。非効率は常に存在している。そんなとき、冷徹に勝ちにいくことで、十分に戦果は得られるものだ。


「馬券の配当160億円」をどうやって実現したのか - 朝日新聞の補足記事 - アフター・パンデミック
http://d.hatena.ne.jp/CaptainTrips/20091009/UPRO_Legendary_Gambler

倍率(オッズ)が高い馬券には小額、倍率が低い馬券には高額をかけ

パッシブに買うだけでも、必然的にこのような形になる。ポイントは、ここからどのようなリスクを取るかにかかっている。

3連単では2頭を除くだけで買い目は3分の1近く減る

どの2頭を、まるっきり除いてしまうのか、という点が、従って大変重要な判断になるだろう。


RATE BUSTER:ウインズの怪人
http://blog.livedoor.jp/ratebuster/archives/51545704.html

3連単でやはりバラバラの買い目を買っていました。掛け金は先頭行は300円でしたが2行目はなんと14000円でした。3連単で1点14000円と言うことは的中すれば一撃で大口窓口です。この調子ではアシスタントが印刷しているマークカードの枚数からすると1R30万円-50万円は購入している見込みになります。1日となると1000万円は馬券を買っている計算になります。


もちろん、あまり参加者が少ないところでリスクを取ろうとすれば、自分の行動が倍率を大きく動かしてしまう。大きな他人が、後から入ってくることだってある。このあたりには、十分に配慮する必要があるだろう。当然のことながら、オッズは一般に時間の関数である。個人的には、このあたりをもうすこし上手に表現する賭け事遊びのフレームワークをつくってみたい、という思いがあります。この指とまれ


さて脱線したところで、再度繰り返しておく。中立とは、まず他人と同じ行動を取ることだ。株式を運用するプロフェッショナルでも、このことを理解していない連中は実際に多い。顧客にも評価会社にも、TOPIXとの比較で論じられるのなら、スタートラインはTOPIXと同じ状態をつくり出すことにある。その後で、意図するリスクを、分散を考えつつ付加していけばよい。ここでまた宣伝。投資やリスク管理の相談、承ります。この考え方を、世界の全体へと拡張させようとするのが、BlackとLittermanのフレームワークである。その根本は、世界中の市場参加者の均衡ベットを出発点とし、自らの見通しを、リスクを軸に反映させていくという点にある。