住宅の購入と人生のバランスシート
10年以上のローンはだめです - Chikirinの日記
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20091016
借金の「リスク」と銀行の「陰謀」と不動産の「価値」について - よそ行きの妄想
http://d.hatena.ne.jp/chnpk/20091016/1255704727
「35年住宅ローンはリスクがある」でいいんじゃないの? - 不動産屋のラノベ読み
http://d.hatena.ne.jp/Lhankor_Mhy/20091018/1255848683
いっそ気持ちいいくらい論点がバラバラなのは、この手の問題に関して、議論のための共通の土台のようなものが、少なくとも広く一般には、存在していないことを暗示している。頑張って提示してみたい。なるべく簡潔に。ツールはもちろん先日の、人生のバランスシート*1だ。そもそも住宅の購入みたいな人生の一大事は、他の大事と、切り離しようがない。ならばこの文脈で、人生の全体の視点から考えないことなど、出来ようはずもない。住宅の購入とは、このようなアクションであるはずだ。
引退までの給与収入 年金 現預金 リスク資産 | 引退までの生活費 引退後の暮らし 好きなことにつかうお金 |
家族への遺産 |
引退までの給与収入 年金 自宅 現預金 リスク資産 | 引退までの生活費 引退後の暮らし 住宅ローン 好きなことにつかうお金 |
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さて、10年以上のローンは駄目というのは、もうすこし具体的に表現するなら、「10年以上のローンを組まなければ購入することが出来ないような、高過ぎる家を買うな」ということなのだろうと思う。その理由は、こんなご時勢では、引退までの給与収入や年金が減ってしまうかもしれないからだ。言い換えれば、例えば現預金やリスク資産が十分にある場合や、将来の収入に不安がない場合は、そのケースには該当しないはずだ。
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バランスシートに占める住宅の大きさが、特に土地よりも建物の比率が高いマンションである場合には、老朽化とともに徐々に小さくなるのは当然のことだ。もちろん新築にはピカピカプレミアムが上乗せされているし、中古住宅の売却にコストがかかる分は、割り引いて考える必要もあるだろう。他方で、住宅価格がどんなに変わろうが、既に契約した住宅ローンの負担は変わらない。購入者は、このことを意識することによって、よりよく将来のバランスシート像を探ることができる。主観的な「使用価値」なんてものに大した意味はない。単に本来家賃にすれば安いはずの古いマンションに住んでいるが、自分は気に入っていて、十分に満足しているというだけの話だ。
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バランスシートの右側にいこう。35年ローンは、本当に大きなリスクだろうか。負債には金額と長さがある。同じ1000万円を、10年の変動金利で借りることと35年の固定金利で借りること、どちらがリスクが大きいのだろう。馬鹿みたいに当たり前の話だが、月々の支払いは35年ローンの方がずっと小さいので、資金繰りは楽である。負債の長さだけが、ここでの問題でないことは自明だろう。将来に変動する金利は、一般に、人生のバランスシートすべてのアイテムに影響を及ぼすが、ここだけ固定化された住宅ローンの金利は、そのとき(ネガティブにもポジティブにも)リスク要因になるというのは、ひとつのポイントだ。
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さて、なんとなく誤魔化しつつ進んできたのだが、この人生のバランスシートは、通常よく見かける企業やらのそれとは、すこし異なる。これから発生する未来のアイテムを、積極的に載せているのだ。すこしモダンな考え方。で、落ち着いてよーく考えてみると、居住用住宅の購入とは、引退までの給与収入や現預金の一部を自宅に置き換え、また引退までの生活費や引退後の暮らしに占める家賃支払いを住宅ローンに置き換えるアクションである。一番最初に、あたかも住宅の購入によってバランスシートが膨らむかのような表現をしたのだが、実はこのことは明らかでない。ましてや購入がトクか賃貸がトクかという永遠の問いなど、ここに表現される人生の大雑把な地図を見ただけでは、もちろん明らかでない。別の助けが必要だ。
*1:id:equilibrista:20091009:p1