貨幣発行益という幻

金融市場が発達した社会では、貨幣発行益は存在しない。現在の日銀は、0.1%の金利を払って短い資金を集め、長い債券や株式を購入している。これは市中の金融機関のみならず、誰でも実行可能なプログラムである。0.1%での資金調達が難しければ、先物を買っても実質的には同じことだ。あらかじめ資金を突っ込む先と相殺した形と思えばよい。言い換えれば、0.1%を安定的に上回る形でキャッシュ運用することは困難であって、量的質的金融緩和は、つまり国債先物と株式指数先物のロングと大差ない。貨幣発行益のように見えているのは、リスクの見返りである。蛇足だが、負担するのは広義の納税者だ。


貨幣発行益の現在価値合計は貨幣発行額になる*1みたいなハッタリめいた言い回しも見かけるが、無利息で永久に借りられるのなら貰ったのと同じことだ、という誰でも知っている事実の言い換えに過ぎない。リスク資産の価格は、将来に渡るフローの現在価値であるという公理は、ここでは単に目眩ましとして用いられる。無利息の紙幣は、政府によって独占的に発行され、我々は利息分のプレミアムを払う。要するに税と大差ないわけだが、金利差が大きくなるほど、国立印刷局を廃止しデビットカードへの補助金に充てる圧力は強まろう。桃の節句は終わったが、桃源郷など存在しないのは、桃は我々が食べ尽くす。これが現代の金融を考える土台である。