信用リスクによるインフレーション

似たような話ばかり続く気もするが、そんなこと気にしてられるか。"Audit the Fed"が関係者をキレさせて盛り上がる*1中、今日は中央銀行の信用リスクによるインフレーションの説明を試みたい。


航空会社を例に考えてみよう。あなたが100円分、この航空会社の発行する債券を持っていたとする。債券とは要するに借金のことだが、彼らが展開する空運ビジネスがうまく回らず、きちんと返済されないように思われるとき、その取引価格は下落してしまう。やや極端だが、100円分の債券の価格が半分になってしまったと思っていただきたい。50円になってしまったのだ。午後の楽しみにしていた二個で100円のリンゴは、一個しか買えなくなってしまった。


空運債券
株式


中央銀行であれ、構造に大差ないことを確認しよう。あなたが100円分、日銀に預金を持っていたとする。日銀から見れば借金だが、彼らが保有する国債が世間から危ぶまれ、きちんと返済されないように思われるとき、預金の価値は下落してしまう。やや極端だが、100円分の預金の価値が半分になってしまったと思っていただきたい。午後の楽しみにしていた二個で100円だったリンゴは、やはり一個しか買えなくなってしまった。200円になってしまったのだ。


国債預金
紙幣


混乱されているかもしれない。100円という額面に、あまり注目し過ぎないことがポイントである。バランスシートの左側が怪しいと思われるとき、相手が誰であれ「貸し」の価値は縮小し、交換できるリンゴの量は減ってしまう。そう、これが実質だ。すべての取引をリンゴやバナナで表現するのは面倒だという理由で、我々は日常的に円を使う。が、このことは必ずしも、もちろん円の発行体としての日銀の財務を保証しない。どれだけ紙幣を印刷したところで、財務を改善させないことも自明だろう。


「貸し」が返済されない危惧、つまり信用について、バランスシートの大きさも、そのフローに対する比率も、無関係とまでは言えないものの、しかし直接的に脆弱を表現する指標とはならないことも、また自明だろう。倒産確率を探ろうと思えば、例えばアルトマンのような財務モデルや、あるいはオプション価格にヒントを得たアプローチ*2の方が幾分マシだろうが、いずれにせよパワフルとは言い難い。モジリアニとミラーまで戻ろう。まずは資産側について確認することだ。そう考えると、国債の買い手としての黒田総裁が財政に注文をつける*3ことも、自覚的か否かにかかわらず、至極当然と言える。


FOLIO(フォリオ) vol.5

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さて、ついに出ましたFOLIO第五号。金融×IT、ホントのトコロ。本物の社長が、マジでアツいぜ。