タイミングを計る年金

安倍首相は要するに、これから株は上がるんだという願望を土台に、年金は買えと言いたいわけだ。大枠を変えることが「常識」なら、そもそもモデルもへったくれもない。


首相、GPIF運用「モデル変えていくのは常識」 : 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL30H58_Q4A031C1000000/

基本ポートフォリオ(資産構成割合)の見直しについて、「デフレ下とデフレから脱却したあとのモデルを変えていくのは常識」と述べた。そのうえで「株価対策を目的としたわけではないが、結果として日本経済にも貢献する」と強調した。


他方で現場にしてみれば、そんなもの大昔から、失敗を繰り返してきた歴史そのものである。もちろん、こちらが常識だ。


基本ポートフォリオの考え方 | 年金積立金管理運用独立行政法人
http://www.gpif.go.jp/operation/foundation/portfolio.html

長期的な運用においては、短期的な市場の動向により資産構成割合を変更するよりも、基本となる資産構成割合を決めて長期間維持していく方が、効率的で良い結果をもたらすことが知られています。


もっとも原始的な投資判断としてのタイミングは、世界中を探しても、年金運用の中に見つかることは稀である。理由は年福の言うとおりだが、より根源的には、こいつは合同運用には馴染まない。誰かの意向を表現しようとすれば、他の誰かの意向に反するからだ。どうしたって結果として、リスクを負担するプレミアム、つまりベータ*1を享受しようとする方向にならざるを得ない。ベタに言うなら、「デフレ脱却」はもちろんのこと、おい日銀が来やがるぞオリャーとか、おい中国がバブってるぞ逃げろとか、そういう判断を投資行動として表現することは、「皆の」年金には難しいわけだ。


無知の知を持たない首相が、誰の受け売りか、今回は強引にプッシュしているわけだが、こんなもの後になって馬鹿の烙印が押されることは、「短期的な」結果にかかわらず、最初から決まっている。そして更に味わい深いのは、こうした失敗の本質に、とりあえず理由をくっつける高い能力を持った現場の対応である。


年金積立金管理運用独立行政法人 中期計画の変更について (pdf)
http://www.gpif.go.jp/topics/2014/pdf/1031_midterm_plan_henkou.pdf


この手の資料にしては、よくできていると思うのだが、それでも目に付くのは役所文書の基本動作だ。それっぽさと面倒臭さを同時に演出、潜在的に批判的な読み手に対して、なるべく高いハードルを置いておきたい。具体的には、

  1. ページ数
  2. 漢字の数
  3. ページあたり文字数
  4. 専門用語の数
  5. グラフの数

あたりを突き抜けたものとして組み立てるわけだ(適当)。とはいえ、どれだけ連中が武装したところで、結局のところ庶民としての我々の攻め手としては、「下がったらどうしてくれるんじゃコラ」で済むわけで、本日広くお伝えしたい内容として、まずこの点を挙げたい。それから僕個人が、じゃ年金はどうすんだよと言われれば、もちろん確定拠出*2である。公的だろうが私的だろうが、結局のところ解がココにしかないのは、リスクについて判断できるのは、それを負担する本人だけだ。