しゃっくりとモメンタム

「サプライズを演出」だとか、金融政策はビックリさせた方が偉いみたいなことを、したり顔で語る連中が最近増えてきたような気がするが、当然のことだが物価も経済も、しゃっくりとは異なるので、驚かせたからといって特にいいことはない。待ち構える投機屋の気持ちになって考えてみよう。そうだな、今日は大規模な「株買い」発表の前日だと思おう。


明日に大規模な「株買い」発表が行われる可能性は、五分五分だとあなたは考えている。もし確実なら、その「株買い」に見合った価格までは買いたい。もし実行されないのなら、買わないでおきたい。五分五分なので、その中間だ。すこし高めでいい。さて、その前日はどうだろうか。その「五分五分」の状態になる可能性が、また五分五分だと考えているとしよう。わかりにくいかもしれないが、半分の半分である。もちろん、その分だけ、すこしのすこし高めでいい。その更に前日も同じように、すこしのすこしのすこし高めでいい。


他方で、明日に大規模な「株買い」発表が行われる可能性は、1:9だと考えているとしよう。十分の一である。もしかして実行されるかもしれないので、その分だけ一応、ほんのすこし高めでいい。さて、その前日はどうだろうか。その「1:9」の状態になる可能性が、また1:9だと考えているとしよう。わかりにくいかもしれないが、百分の一と思おう。もちろん、その分だけ一応、ほんのすこしのほんのすこし高めでいい。その更に前日も同じように一応、ほんのすこしのほんのすこしのほんのすこし、高めでいい。


さて、学校で習った算数を思い出そう。いずれのケースも、発表よりも手前に遡るほど、株価は大発表を「織り込まない」水準に近づく。僕が何を言いたいか、伝わってきただろうか。どっちみち、その「株買い」に見合った価格が変わらなければ、そんな計画について誰も気にしなかった頃から実際に発表されるまでの間に、株価の上昇分は同じようなものだ。「期待」に応じて、前もって上昇するか、直前に上昇するかの違いしかない。


直前に上がった方が、どんくさい奴にとっては助かるという考え方もあるかもしれない。発表を見てからの競争はシンプルだが、いつだって更に遅れてくる奴はいる。投資テーマとしてのモメンタム*1は基本的に、遅刻と後追いの構造の上に成り立っている。


黒田総裁は、期待形成のモメンタムがクリティカルなモーメントを迎えている*2などと、長嶋茂雄さんみたいなことを言っていたそうだが、より大切なことは、株や不動産や外貨を買い遅れた、つまりモメンタムの構造を支える人々は、緩和プログラムによって貧しくなっている。黒田さん、あんた自分で何やってるか、わかってないんだよ。