スマートベータによる市場リスクの対角化

「スマートベータ」なる特に目新しさのないマーケティングも含めて、何をどう格好つけてみたところで、結局のところ市場で取引されている株式の組み合わせによって、チャレンジは表現されることになるだろうと、こんなふうにn銘柄への配分ベクトルの形で書きたくなる。特に難しい話ではなく、小型を買って大型を売るだとか、クオリティを買ってジャンクを売るだとか、そういう基本的な構造を、各銘柄で具体的に表現しようというわけだ。


w = (w1, w2, ..., wn)


で、問いはひとつしかない。我々は一体、どのようなwを取引したいのだろうか。スマートベータの構造と姿を探ろう。


n次元ベクトルとしてのwは、様々な「向き」をとることができるわけだが、その中から情報量の多いものを選び出したい。皆が取引したい未来にかかる不確実は、必然的に値段は活発に動くことになる。既知の「ベータ」と直交して、かつ分散の大きなwを取り出すアクションは、各銘柄にかかる共分散行列から、固有ベクトルを取り出す操作と同値である。そう、主成分分析だ。


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最初の主成分は、おそらく「最も普通の」ポートフォリオを表現するだろうし、続々と取り出されるw群は、例えばバリューやらモメンタムやら、しばしば見かけるアクティブ運用の指針に違いない。そして任意のポートフォリオは、それらの各スマートベータを基底として展開する*1ことができる。巷で売っている基本的な商品を組み合わせて、投資にかかる様々な意図を、近似的に表現可能だろうというわけだ。どうしても同じ構造を持った、別の事例を覗きたくなってくる。



画像はリンク先*2の魅力的な記事から拝借したものだが、スマートベータを組み合わせるほど、個性は鮮明に描き出される。考えるほどに不思議だが、まったく異なる分野の土台として、驚くほど似た構造が横たわっている。我々は「どんなリスクを取引したいか」について考えることは、極めて汎用的な固有値問題*3だったのだ。各スマートベータを列に並べて行列Wをこしらえよう。各銘柄にかかる共分散行列Σは、w群の分散を対角成分に持つ行列へと変換される。


WTΣW = diag(λ1, λ2, ..., λn)


実際に売られるスマートベータ商品は、空売りを避けたいというベタな理由で、第一のベータと同居している場合が多い。例えばJPX400*4は、個性として持つはずのクオリティの切り出し方が洗練されているとは言い難いが、TOPIXのロングと、これに直交する"ROE"成分の足し合わせと捉えることが可能で、分離して考えることも容易なのだから、前者はヘッジするなり好きにしろとも解釈できる。


よりよいリスク商品の姿が、おぼろげに見えてきた気がしないだろうか。連中の「向き」と、真剣に向き合いたいと考える商品開発の現場の皆様、いつでもご相談承ります。