インフレ税

セブンイレブンのパンが小さくなった。僕の好きなキャベツの入ったメンチカツのパンの話だが、量が減った商品は、他にも沢山あるように感じている。あるいはレジで支払うタイミングで、アレっと思うことがある。思っていたよりも、すこし高い値段が表示されているのだ。


もちろん理由の大きな部分は消費税なのだろう。とはいえそうでない部分、例えば円安や原材料価格の高騰、またガソリンや電気代の上乗せ、あるいはこれまでの長く苦しかった戦いを「便乗」して緩和したいというチャレンジだって、そこには含まれているはずだ。ともあれ僕の財布の購買力は減った。一部では給料やボーナスが増えた話もあるようだが、どっちみち雀の涙で、増減を合計してみれば、やはり購買力は失われている。まさに、これがインフレ税である。少なくともその雰囲気は感じられ、それが一体どんなものか、「失われた」20年の間よりも、おぼろげに姿が見えてきたように思う。


誰にとっても、同じように購買力は減っているだろうか。もちろん預金の購買力は一律に減るわけだが、その裏側では、借金の負担が減っている。経済主体のバランスシートの姿はさまざまだが、借金の側に注目すれば、これは嬉しい話なのだ。そもそもなぜインフレ「税」かといえば、日本で一番カネを借りているのは日本政府である。また借り手は他にも沢山いて、企業や、そして住宅ローンを借りた家計も、同じように税の一部を受け取る。言うまでもなく、資産の側で預金の代わりに保有されている株や不動産も、二年前と比べれば値段は上がっている。外国資産もだ。


やってられないよな。要するに、俺達がすこし苦しくなった分、すこし楽になった連中がいる。ただしかし、このままずっと物の値段が上がり続けて、一方で給料は追い着かず、生活が苦しくなり続けるかどうか。まだ決まったわけじゃない。物価さえ上昇すれば明るい世の中になると、能天気に考えていただろう黒田さんも\(^o^)/オワタ副総裁も、そろそろおかしいと気づき始めている。気づき始めているに違いない。壊れたレコードのように大本営発表を繰り返したところで、どうしたって周囲の反応は芳しくない。暮らしは楽になっていないばかりか、冒頭のような状況だ。

日本銀行は、第129回事業年度(平成25年度)決算において、財務の健全性確保の観点から、当期剰余金の5%相当額を超える20%相当額を法定準備金として積み立てる方針を決定し、本日、財務大臣に対して日本銀行法第53条第2項に基づく認可申請を行いましたので、お知らせします。

日本銀行法第53条第2項に基づく認可申請について : 日本銀行 Bank of Japan


すこし別の話だが、日銀の事務方も危機感を覚えているのだろう。阿呆みたいに長い国債を買い続けているわけだが、その将来の損失に備えて準備金を積み増そうとしているのだ。マネタリズム信奉者には理解しにくいかもしれないが、上記のアクションは、日銀が「信用を失う」ことによるインフレーションの召喚とは逆向きである。そもそもインフレーションによる需要*1とは、特に買いたいわけでもないのに、購買力が失われそうだから仕方なく無理に買うという、極めて後ろ向きな行動のことだが、そのメカニズムの主役であるところの日銀が、役割を果たすことから逃げ出そうとしている。



インフレーションにかかる目標を達成するために、必要なのは「明日なき暴走」だと [twitter:@hongokucho] さんも言っていたが、こんな弱腰でインフレに円売り、株買いなんて誘発できるわけがない。光り輝く不動産がバンバンと建ち並ぶ中、アクセル全開の自殺マシーンで駆け抜けなきゃ。なのに連中はビビってる。ヘイヘイヘイ。もちろん市場界隈では、そんな雰囲気は既に感じられている。甘利機長が「当機はまもなく乱気流を抜ける」と宣言した*2一年前の株価は、今と同じ水準である。今日も元気だ円が高い。さて、これからどうするのか。

*1:需要によるインフレーションとは異なる

*2:http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE94R01R20130528