黒田総裁講演雑感

「大規模にやりましたので、いまのところ順調です」


いつも壊れたレコードみたいに繰り返すので、彼の話には興味を失っていたのだが、ここ数日の講演を覗いてみると、なんだか裸の王様みたいだ。


【講演】黒田総裁「なぜ『2%』の物価上昇を目指すのか」(日本商工会議所
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/ko140320a.htm/

【講演】黒田総裁「いかにデフレを克服するか」(LSE主催コンファレンス)
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/ko140322a.htm/


デフレは景気低迷の「結果」であるとともに、それ自身が景気低迷の長期化をもたらす「原因」でもあったと、もう最初から飛ばしている感じだが、消費者物価の下落は、まさに直後に指摘されている通り「平均して年▲0.3%にすぎません」。実質金利が「高止まり」したって、平均して年0.3%にすぎないわけですよ。他に挙げてる複数の数字の大きさと、よく比較してみようよ。それが本当に、高いコストをかけてまで戦う相手なのですか。


そして2%の物価目標を掲げる理由が、1)消費者物価指数の上方バイアス、2)「のりしろ」、3)「グローバル・スタンダード」だってんだから、情けなくて涙が出てくる。バイアスがある分だけ多めにって、それほとんど同語反復でしょ。だったらバイアス分を除いて表現してみようよ、他の主張と整合性取れないから。「のりしろ」が欲しいがために緩和するって、それほとんど同語反復でしょ。緩和余地の為に異次元の緩和。皆もやってるから自分もやるんだって、それほとんど同語反復でしょ。というかデフレは、我が国が先輩じゃないのか。


さらに追い打ちをかけるように、「物価が上昇している局面においては、基本的に、賃金の上昇率が物価の上昇率を上回って推移している」。物価と賃金以外に目を瞑って歴史を振り返ろうって時点で、論外としか言いようがない。1970年代について、1980年代について、1990年代について、よく思い出してみようよ。2010年代とは、別モノに決まってるじゃない。

中央銀行のこうした約束と、それを裏打ちする行動は、フォワード・ルッキングに人々の予想インフレ率を引き上げていくと考えました。また、その結果、実際に物価が上がり始めれば、バックワード・ルッキングにもインフレ予想に働くほか、中央銀行のコミットメントを信じる人が増えることで、フォワード・ルッキングな働きかけも強まると想定しました。

もうコメントするのも面倒なので、単に引用してみる。ほとんど同語反復先輩、お疲れ様です。

15年間、日本は眠っていたくて眠っていた訳ではありません。一人の日本人が、一つの企業が、チャレンジを行おうと思ったとしても、しつこいデフレというマクロ経済の環境のもとでは、チャレンジに見合うリターンが期待できなかっただけです。我々は――「量的・質的金融緩和」や政府の様々な施策によって――、この「合成の誤謬」を打破する鍵を開けました。

0.3%の実質金利で眠ってた奴なんて、眠らせといた方がマシなのですよ。なぜなら金利はいつでも、貸し手と借り手の奪い合いだ。

もともと優れた技術や人的資本を有している日本の企業は、チャレンジを再開し、経済と物価は劇的に好転しました。この流れを逆戻りさせてはなりません。我々は、強い決意を持って取り組んでいます。日本経済が、世界経済にもっともっと貢献していける日は近いと思っています。

本当に不快だ。皆ずっとチャレンジを続けてるんだよ。日本とか世界とか関係なく、皆ずっと活躍してる。現場を馬鹿にするな。


アジアのことを語らせたら、瑞々しく輝く黒田さん。財政について語らせたら、しなやかに鮮やかな黒田さん。こんなに力のあるひとに、こんな講演をさせちゃ駄目だ。日銀の裏方は、もっと頑張れ。