貨幣に求められる唯一の機能

equilibrista2014-03-07

貨幣の「三つの機能」まで遡り、ビットコイン騒動について、理解や解説を試みた記事を見かけるのだが、1)交換可能なこと、2)価値を測れること、3)資産性という三つは、並べてみても互いに独立とも思われず、また環境に依存する性質は無視できないようにも思われた。


最近のネット取引の例を挙げるまでもなく、物々交換の面倒はテクノロジーによって減る一方だし、あるモノが別のモノの何個分に該当するのかについても、そうした取引が可視化されるほど、明らかになっていく。だとすれば前者二つは、時間とともに、三番目の「価値の保存」に支配される性質であるように思われた。端的に言えば、提供する物やサービスは「価値が保存される」ものと交換したいし、「価値が保存される」もので測らなければ、時間を跨いで価格を比較するのは面倒になってしまう。


気をつけなければならないのは、「価値が保存される」機能は、ゼロかイチかのデジタルではない。円やドルに比べて、大きく価格が変動するビットコインを想起いただきたい。保存されるかもしれないが、その価値は増えたり減ったりしてしまう。つまりリスクがある。


リスクのある資産を使った取引は避けたいし、リスクのある資産で測りたくない。自然なことだ。予言しよう。新たに貨幣をつくり出そうとする試みは、結局のところ安全を誇る戦いとなるだろう。その結果として、当ブログでは頻繁に指摘していることだが、未来のマネーは無リスクの金利によって表現されることになる。「無リスク」に引っかかるのなら、「低リスク」と読み替えていただいてもよい。より「価値が保存される」資産を媒介に、我々は取引を望み、価格表示を望むわけだ。自然なことだ。


中央銀行が常にバランスシートの公開を続けるのは、安全を誇示するためである。最近では「景気を制御しろ」などと無茶を言われて、余計な資産を買わされたりツッコミどころも多いわけだが、我々はマネーにそんなものを求めないからこそ、自由を愛する技術屋はビットコインに熱を上げた。ところがビットコインは、繰り返し指摘してきた*1ように、価格が乱高下してしまう。あるいはリップルなら、借り手の信用リスクが気になってしまう。我々はテクノロジーを持ち出して、どのように未来の通貨としての、無リスクの資産をつくり出せるだろうか。


おそらく必要なのは発想の転換だ。「低リスクの資産をつくり出す」ことが皆の望みなら、リスクを取引して、リスクを移転するための仕組みをつくってやればよい。


ビットコインから、価格変動リスクを取り除くための仕組みをつくってやろう。あらゆる銀行から、リップルから、信用リスクを取り除くための仕組みをつくってやろう。リスクの受け手を探す「取引所」と考えていただいてもよい。そうしてリスクの取引を促す仕組みは、当ブログの夢のひとつである。貨幣に求められる唯一の機能が無リスクなら、リスクそのものを流動化させよう。アローはもう一度、きっと世界を驚かせることになる。