2つのポートフォリオの買いと売りを組み合わせる

JPX日経400*1の算出が今日から始まったそうだが、以前にも書いた*2とおり、率直に言って「利益を出す」会社を買う特殊な指数に、特に興味は湧かない。要するに「CAPMをなめんなよ」と思わざるを得ないのだが、時の洗礼を手伝うためにも、リスクマネジメントの観点から、その性格を把握するための見方について簡単に書いてみたい。そうだなTOPIXと比較する形でいこう。


さてJPX日経400か、またはTOPIXのどちらかに含まれるn個の銘柄について、それぞれの指数の組み入れ比率を並べて、WjpxとWtpxという2つのnx1ベクトルと思おう。どちらか片方の指数にしか組み入れられていない銘柄の、もう片方の配分ベクトルの当該成分はゼロである。そしてn個の銘柄にかかる共分散をnxn行列Σとすれば、JPX日経400とTOPIXの乖離リスクは、こんなふうに書くことができる。JPX日経400を買って、TOPIXを売る取引エクスポージャのリスクと考えていただいても差し支えない。


√(Wjpx-Wtpx)TΣ(Wjpx-Wtpx)


銘柄毎に、JPX日経400の組み入れ比率とTOPIXのそれとの差分を考え、リスクの空間で二乗して足し上げる。好みで最後に平方根をとってもよい。すぐに1)WjpxとWtpxが似ているほど、また2)Σの非対角成分が大きいほど、乖離リスクは小さいことが見えるだろう。後者は、すべての銘柄がピッタリ同じように動く状況を想定すると、わかりやすいかもしれない。JPX日経400には、TOPIXよりも組み入れ比率が高い銘柄もあれば、逆に低い銘柄もあるわけだが、どれも同じように動くとき、両指数の動きは変わらないはずだ。


両指数の乖離リスクは、必ずしもROEの高低にかかる投資家の選好のみを理由として実現しないことは自明だろう。TOPIXのみに含まれるクソ株に、ROEとは関係のない理由で買いが殺到するとき、もちろんJPX日経400は負けてしまう。そもそも株価の動きを説明しようとするとき、ROEはお世辞にも筆頭に挙げられるファクターとは言い難い。それよりも、例えば業種や、そのときホットな投資テーマについて、いつでも我々は考えたいわけだが、現在の状況ならこんなファクターを考えるぞという作戦を持っているとき、n個の銘柄について、そのエクスポージャを並べよう。ファクターの数がk個ならkxn行列Bの形に書けて、ファクター群にかかるkxk共分散行列Λと一緒に、先の乖離リスクはこんなふうに分解される。


√(Wjpx-Wtpx)TBTΛB(Wjpx-Wtpx)


Λを挟むB(Wjpx-Wtpx)は、その考えたいファクター群の眼鏡で見た差分である。それぞれのファクターが返すと期待するリターンをkx1ベクトルRで書こう。このときJPX日経400買いのTOPIX売りには、こんなリターンを期待している。


RTB(Wjpx-Wtpx)


単位リスクあたりの、こいつが大きいと思われるとき、もちろん取引に突入だ。


RTB(Wjpx-Wtpx) / √(Wjpx-Wtpx)TBTΛB(Wjpx-Wtpx)


いやガタガタ理屈をこねなくとも、GPIFやら巨大な連中が突っ込んでくるタイミングは決まっているわけで、単に事前に買って事後に売るだけで、価格が周囲へと波及する一般均衡を支えつつ、お釣りをチャランと手にすることはできるわけだが、例えばNT倍率を取引する際にも、あるいはMSCIの投資家をカモろうとする際にも、添え字を読み替えて使える一般形を頭の隅に入れておくことは、きっと悪くないと思う。もちろんプロの皆さんには、お客さんへの説明の骨格として必須アイテムだ。