硬貨は負債として計上されない理由を述べよ

紙幣であれ、硬貨であれ、一般に負債性を持つわけだが、硬貨のそれは紙幣と比べても、より一層わかりにくい。この点に今日はチャレンジだ。



誰かが100円硬貨を発行することを考えよう。現在の我々が使う100円硬貨は銅とニッケルの合金のようだが、簡単のために、その素材価格は50円で、加工の費用はゼロだと思う。この仮定を緩めることは容易で、結論には大きな影響を与えない。


つくった硬貨を、そうだな銀子*1に渡して、交換に100円分の資産を受け取る。安全なら何でも構わないが、とりあえず国債としよう。硬貨の素材業者に50円を渡すと、手元には50円の国債が残る。発行体のバランスシートは、こんな感じだ。


資産負債
国債
50円
銀子から借り
100円(額面相当)
銀子への貸し
50円(金属価格相当)


将来どこかで銀子から100円硬貨を受け取り、同時に100円相当の資産を払い出すと思うとき、額面相当の100円を借りていると思うこと、そして同時に金属価格相当の50円を貸していると思うことは、自然に感じられると思う。銀子との貸し借りを相殺させて、消してしまってもよさそうだが、金属価格は時間とともに変動する点は厄介だ。


同じアクションが紙幣だった場合には、銀子への貸しに該当する部分は極端に小さい。紙が返却されれば、再生させてトイレットペーパーとしては使えるわけだが、100円の借りの大部分を、何らかの資産の形で保全しておくことが、発行体の財務の健全性を保つためには不可欠である。


資産負債
国債
98円
銀子から借り
100円(額面相当)
銀子への貸し
2円(古紙価格相当)


他方で現在の一円玉のように、素材として用いられるアルミ価格が高い場合には、保全すべき資産は大きくない。要するに、発行しっぱなしでも、特に大きな問題は生じない。硬貨が返却されるとき、自動的に資産としての金属が返却されるからだ。


資産負債
国債
2円
銀子から借り
100円(額面相当)
銀子への貸し
98円(アルミ価格相当)


さて、表題に戻ろう。現実の硬貨の状況は、二つの極端の間にある。さまざまな硬貨の負債性について、それぞれ真面目に評価することは、率直に言って面倒なので、特に大きな問題が起きないとき、現状のまま放っておきたくもなろう。もちろん、ならばと調子に乗って「百兆円玉を発行しろ」などという阿呆*2が出てくれば、話は別だ。