目隠しリスクのプレミアム

楽天株式会社: 三菱UFJモルガン・スタンレー証券のアナリストレポートについて
http://corp.rakuten.co.jp/news/press/2013/0702_01.html

また、当社は今後同氏の取材については一切お受けしません。


株屋のレポートに限らず、誰かが何かについてトンチンカンなことを言ったり、そのトンチンカンが迷惑だって話はどこにでもあるわけだが、だから黙ってろとか、あるいは逮捕するぞとか、そういうやり方を、長い時間をかけて人類は排除してきた。いまでも排除する過程にある。理由は簡単で、不快だからだ。他の強い不快を生み出さない限りにおいて、じゃんじゃんやり合えばいいだろと。僕も賛成だ。他方で上記に引用した部分は、1)上場企業が、2)情報提供ルートのひとつを排除する、という宣言である。「べき」論の向こう側にある、こうした選り好み宣言が何を引き起こすかというメカニズムについて、今日は考えてみたい。


いつでも誰にでも、上場企業は、望まれる情報を直ちに提供している世界について考えてみよう。百家争鳴かもしれないが、ここでは投資家は、一次情報の有無や質についての心配は比較的小さいまま、さまざまにそれらの確認や咀嚼をしつつ、投資判断を行うことができる。よい情報が入ったときに、他の皆が考えるよりも、それがよい内容であると思えば、買いを入れる理由になる。悪い情報が入ったときに、他の皆が考えるほどに、それが悪い内容でないと思えば、買いを入れる理由になる。そうしたことを繰り返しながら、株価は形成されている。


対照的に、上場企業はいつでも、気に入らない相手には情報を遮断することが認められている世界について考えてみよう。ここでは投資家は、まず自分の接する情報について、その真偽を気にする必要が大きい。よい情報が入ったときに、他の皆が考えるよりも、それがよい内容であると思えて、かつ情報がそれなりに信頼できると思うとき、買いを入れる理由になる。悪い情報が入ったときに、他の皆が考えるほど、それが悪い内容でないと思うか、または情報があまり信頼できないと思うとき、買いを入れる理由になる。判断の構造は相対的に複雑で、妙味が出てくると考える者もいるかもしれないが、全体としては面倒な感じだ。より極端には、自分にとって都合の悪い情報を、多くの潜在的な投資家および代理人に対して遮断する可能性があると考えても、さほど遠くない。


もちろん、我々の現実は、両者の間のどこかにある。だから楽天は、こうした声明を適時開示として堂々と出したわけだし、そのことに市場関係者の多くは憤慨している。ひとつ僕から提案がある。上場企業は、「情報を選択的に出す」フラグを事前に明確にすることを、新生東証は、新たに義務づけてはどうか。「私どもは、気に入らないと思ったら、突然情報を出すのを止めたりしますよ」と、あるいは「私どもは、気に入る入らないにかかわらず、情報の提供を止めたりしません」と、強い罰則とともに、事前に宣言させるわけだ。


まさか楽天が、情報を出す相手の選り好みを始めるなどとは夢にも考えていなかった者も、既存の株主の中には少なくなかったはずだ。「お前もう出入り禁止な」と、情報の咀嚼のされ方にかかわらず、恥ずかし気もなく繰り出すような奴だと知っていれば、そもそも金なんて出さなかったかもしれない。そうコンセンサスとしては考えられていなかったとすれば、当然のことながら、株価を割り引く新たな要因になってしまう。ふざけんなっての。


「選り好みフラグ」を立てた会社だけを集めて、指数や投信を組成したい気持ちが、どうしても生まれてくる。その分だけ、株価は安いからだ。いまから予言しておくが、きっとTOPIXをアウトパフォームするだろうと思う。もちろん、フラグ有りをロングしてフラグ無しをショートする市場中立なプログラムは、ヘッジファンドを名乗りたい皆さんにおすすめだ。情報が見えにくい分だけ、霧に包まれた分だけ、我々は株価を割り引いて、安くなければ買わないのだから、えいと目をつぶって引き受けたリスクは、その分だけ見返りを返してくれる。これが均衡の眼鏡である。