「ポートフォリオリバランス」の矛盾

日銀が今週出した「2012年の金融市場調節」と題するペーパーが面白くて、すこし時間をかけて読もうと考えたわけだが、こいつを肴に白川さんと一杯やりたいものだと夢想したわけだが、とりあえず目に付いた点について、突っ込みメモを書いておきたい。


(論文)2012年度の金融市場調節 :日本銀行 Bank of Japan
http://www.boj.or.jp/research/brp/ron_2013/ron130509a.htm/


網掛けされた「BOX4」では、資産買入れプログラムによるバランスシートの変化と、いわゆるポートフォリオリバランス効果について書かれている。日銀が市中の銀行から国債を買い取るとき、銀行が持っていた国債当座預金に変わり、その分だけ日銀のバランスシートが縦に伸びるという話である。


使用前:

              銀 行
  日 銀     ----+----
----+----   国債|預金
国債|紙幣   貸出|


使用後:

  日 銀       銀 行
----+----   ----+----
国債|当預 = 当預|預金
国債|紙幣   貸出|


上記よりは、もうちょっと真面目な図が挿入されているが、その後に付されている説明を引用してみる。

民間金融機関の資産運用の観点からは、日本銀行による資産買入により、日銀当座預金が増加する一方、運用資産である国債等が減少するほか、資産買入の進捗により国債等の利回りにも低下圧力がかかることとなる。このため、民間金融機関は、ポートフォリオ全体としての収益性を維持するためには、リスク性資産への投資や貸出等を積極化することが期待される(ポートフォリオリバランス効果)。


要するに、銀行の持ってる国債を日銀が買い取る→その分は当座預金になっちゃう→以前よりも儲からない→貸し出したり株買ったりしなきゃとなる、と言っているわけだ。阿呆かっての。おかしいだろ、じゃなぜ銀行は最初に、持ってる国債を日銀に渡すんだよ。この説明だと、その取引は何の得も生まないじゃないか。

日本銀行の資産買入れは、民間金融機関との間における任意の取引を通じて行われることから、どの程度円滑に資産買入れを行えるかは、民間金融機関の保有資産の売却ニーズや日銀当座預金保有スタンスに依存する。


まさに、直後に書かれているように、そんなものは銀行の判断だ。株式会社だぞ。魅力を欠いた当座預金との交換に応じるなんてのは、普通に背任だっての。当然のことながら銀行は、より高い値段で国債を売り渡すか、あるいは当座預金に高利を要求せざるを得ない。金融政策のトリレンマを思い出してほしい。


あらゆる貸借の価格は、どうしたって殴り合いで決まる。誰も神の手から逃げることはできないわけだが、しかし巨大なプレイヤーとしての日銀が、ちょっと何言ってるかわからない状況では、国債市場の先行きは不透明と判断せざるを得ないのは、残念ながら昨今のコンセンサスだ。