債務と成長とモノサシ

例えばスペイン政府に5年間カネを貸す金利は、ドイツ政府に5年間カネを貸す金利よりもずっと高い。もちろん同じ通貨ユーロを用いているわけで、「ひとまず明日までね」と毎日繰り延べ、結果的に5年間貸し続けた場合に受け取る金利は、どちらも同じはずであるにもかかわらずだ。何が違うのかといえば、要するに両者を比較すれば、ドイツ政府よりもスペイン政府の方が返してくれない可能性が高そうだと、貸し手は総じて考えている。だから5年間貸しっぱなしの約束なら、その分だけ見返りを要求するよってわけだ。こうした金利の上乗せ分を、リスクプレミアムと呼ぶ。


緊縮論争に火:ラインハート=ロゴフ論文は誤りか
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/37639


ラインハートとロゴフによる、政府の債務残高がGDPの90%を超えると成長が停滞するという調査に、単純なミス*1が見つかり、このところ話題を呼んだわけだが、比較的まとまった記事が出たので、ついでに以前から感じていたことについてメモしたい。メモなので簡潔に書くが、毎日の生活や商売の中で、政府の債務やGDP、そして両者の比率なんて、そんなもの誰も見ていない。こんな数字を聞かれてスラスラと答えられるのは、実際に貸し借りしている当事者くらいだろう。当然のことながら、明日の例えばコーヒーの消費にも生産にも、直接には影響など与えない。


もちろん、だからといって経済の規模を大きく超えて、政府が借金を増やし続けてよいのか、続けられるかといえば、そりゃ難しい。要するに両先生は、間にある大切なステップを飛ばしている*2ように、僕には思われたわけだ。

⇒しかし、国債の利回りは世の中の金利のモノサシになっています。したがって、国債の利回りがあがれば、住宅ローンや企業への貸し出しなど世の中全体の金利もあがり、人々の生活は苦しくなって不景気になります。

大門みきし ブログ  「忙 中 遊 あり」: 絵本のすすめ61-豹変する日銀マン…いまたいせつなことは


共産党の大門みきし先生は、いつも凄まじい切れ味で、ズバッと肝を突いてくる。冒頭に例示したとおり、借り手の返済能力を疑うとき、貸し手は金利の上乗せを要求する。政府が新たに借金するための条件が悪化するとき、生活者としての我々の新たな借金も、生産者としての我々の新たな借金も、条件は悪化してしまう。税金を徴収される立場の我々にとって、税金を徴収する立場であるところの政府の信用は、大門先生が指摘するように「モノサシ」のような存在だからだ。


さっさと結論を書こう。経済の規模に比して政府の借金が大きければ、より高い金利を要求される場合もあるだろうが、他方で現在の我が国のように、さまざまな理由*3で、そうでない場合もある。政府が不信から高い金利を要求されてしまうとき、そのモノサシで測られる我々の借金にも、とても高い金利が要求されてしまうが、そのことは経済の活動に直接の悪影響を与えるだろう。


老婆心ながら付け加えておくと、こうして鍵となるリスクプレミアムは、一筋縄ではいかない存在であることも覚えておきたい。債務とGDPの比率を改善させたからといって、疑心暗鬼は、簡単に取り除かれるとは限らない*4からだ。「信じてよ!」と叫ぶ者を信じようとしても、どうしても躊躇わざるを得なかった経験は、あまり思い出したくない。

*1:エクセル操作の間違いだそうだ

*2:あるいは結果的に、乱暴な誘導になっている

*3:実際のところ、割とイヤな感じだ

*4:中銀がドタバタ暴れていれば尚更だ