金融緩和の国際的波及と自国経済へのフィードバック効果

「自国の民間経済主体の支出増加を促すというより、グローバル投資家の利回り追求」になってしまうと、白川総裁は先日「積極的な金融政策の効果と限界」について述べた*1わけだが、じゃんじゃん金を借りる民間経済主体なんてのは、多かれ少なかれグローバルなわけで、あるいは今どき誰でもFXの取引は容易*2で、そんなもの最初から想定しとけよと、21世紀だぞと、突っ込むひとがあまり多くないことは、正直どう理解したらよいのかよくわからない。が、ともあれ皆がグローバルwだと思えば、貸借の構造だってえいと模式化すれば、見えてくるものがあるってもんだろう。えい。

 ビ ジ ネ ス      家 計
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      | 円の   円の | 円の
      | 借入   預金 | 生活
設備や|
 資源 |       ------+------
      |ドルの ドルの|ドルの
      | 借入   預金 | 生活


グローバルなビジネス主体は、もうトヨタでいいや、トヨタは要するに、円もドルも借りるわけだ。誰から借りるかといえば、銀行を経由して、結局のところ家計から借りるわけだが、それトヨタ銀行だと思おう。トヨタにしてみれば、それが円だろうとドルだろうと、借りる金利が下がればラッキーである。商売がイケると思えば、設備や人材に投資するかもしれないし、そうでもなければ、しかし借りてプリウスの電池のために、とりあえず資源でも買っておこうという判断もあるかもしれない。あるいはトヨタ証券の自己勘定では、裁定できそうなところを探して、借りてきた金をじゃんじゃん突っ込んだっていい。


金融政策の限界は、結局のところ預金と利息がどこに投じられるか、政府や中銀が選ぶことはできない点にある。安く借りた金で、設備や人材をつかって素敵なクルマがつくられれば、円の生活にも、ドルの生活にも、フィードバックされてくるわけだが、原油や貴金属の買い占めに向かえば、円の生活にも、ドルの生活にも、やはりフィードバックされてしまう。トヨタを指導すればいいじゃないかと思うかもしれないが、抜け道を探したり、別の奴が出てきたり、かえって物事が見えにくくなって、ソビエト連邦が生まれるだけだ。


気づかれている方も多いと思うが、例えばドルだけが低金利政策を繰り出せば、ドルの預金が生むはずだった利息は設備や資源に回り、それらはドルの生活と、円の生活と、両方にフィードバックされる。金利の押し下げ具合が、もしも円よりもドルの方が強いとすれば、おそらく僕らはいま差し引きすれば、ドルの預金から円の生活に、ポジティブにもネガティブにも、施しを受けていることになる。円だけが低金利政策を繰り出さなければ、円の預金が生む利息は、円の生活者の手元にある。

*1:http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20120326/p1

*2:円を借りてきてドル売り円買いすれば同じことだ