マネーに求められる機能

貨幣の歴史的な経緯とも、また現在の管理通貨制度の姿とも異なるが、しかしリスクの分業と、そして取引の機能の視点から、マネーの起源を探ってみたい。


最初に想定するのは、最も原始的な金融の姿としての株式を、汎用的なマネーとして用いる世界である。家計は貯蓄を株式の形で持ち、資本は向こう側で、商売へと突っ込まれる。そして、この株式をやりとりする形で、すべての決済は実行される。要するに、買い物も給料も、何もかも株式で払われると思うわけだ。

   商 売                       家 計
------+------               ------+------
      |                           |      
 商 売|株 式                 株 式|純資産
      |                           |      


一見、特に問題がなさそうにも思えるが、この世界は実は面倒くさい。何せ株式には、それぞれにリスクがある。買い物や給料の都度、銘柄やタイミング、流動性を気にしなければならないし、仮にETFのようなものをデフォルトに置いたとしても、時々刻々とその価値は変わってしまう。つまり、その株式で計られるところの物やサービスの値段も、時々刻々と変化する。我々が金本位制度を捨てた理由と本質的に同じ問題を、このシステムは抱えている。


そこで銀行を登場させよう。新たな金融の姿として貸借を導入することが目的である。我々は資産の一部を株式でなく、リスクが最小化された預金の形で持ち、日常的な決済に用いる。要するに、買い物も給料も、何もかも振込で払われると思うわけだ。その預金を銀行は、商売に対して貸し出すが、もちろん弁済の順位は株式よりも高い。商売や株主にとってみれば、返せコラと言われてしまうが、しかし事前に決められた以上の果実を持って行かれることはない。

   商 売         銀 行         家 計
------+------ ------+------ ------+------
      |借 入   貸 出|預 金   預 金|      
 商 売|                           |純資産
      |株 式                 株 式|      


もちろん、資金調達の姿が変わったからといって、その先で投じられている商売のチャレンジが変わる*1わけではない。そのリスクを切り離して、株式の側に寄せただけだ。信用リスク?スワップで株式側に飛ばされていると思って下さい。ふう、素敵なシステムがデザインされた。とても嬉しい。


このシンプルな世界で、銀行に求められるプライマリな機能は言うまでもなく、低リスクで流動的な決済を提供することである。もちろん金融が発達するにつれ、様々なスタイルが登場して構わないが、繰り返すが決済の手段としての、低リスクで流動的な負債*2を提供する銀行が、この世から消えてなくなることは、とても困る。聞いていますか、先進国の中央銀行の皆さん?御行は大丈夫ですか?

*1:モジリアニとミラーの世界

*2:預金や紙幣のことだ