全自動マネー

ご飯を食べたり、家賃を払ったり、また住宅ローンを返した後に、使わずに残った給料は、そのまま銀行の普通口座に放っておいたり、また定期預金に預けてみたり、あるいは株式や投資信託を買ってみたり、するかもしれない。その余裕の如何によっては、夏休みの旅行プランを考えたり、ちょっと贅沢なディナーを企んだり、するかもしれない。自分の持つ現預金やリスク資産に対して、一体どのような姿を望むのか。それは自覚的であるか否かにかかわらず、人生のバランスシートを眺めながら決まるはずだと、僕は考えている。


引退までの給与収入

年金

自宅

現預金

リスク資産
引退までの生活費

引退後の暮らし

住宅ローン

好きなことにつかうお金
家族への遺産


もちろん、それぞれの配分に対しては、常に調整を続けることになる。普通預金の残高が、すこしだけ多くなり過ぎたなと思うとき、株を買ってみたりするだろう。その金額や市場見通しによっては、住宅ローンを繰り上げ返済する場合もあるかもしれない。急な衝動でスポーツカーが欲しくなって、つい派手ネクタイの営業に乗せられハンコを押してしまったとき、あわてて定期預金を取り崩したりもするだろう。スイカの残高を気にしながら、ときどき入金するのと似たようなアクションを、またすこし違ったレイヤーで、つまり人生のバランスシートを我々はマネージしている。


いまどき航空機だって自動操縦だが、こういったアクションについて、理屈から言えば、オートパイロットの助けを導入することは容易なはずだ。あらかじめ出しておいた要望に沿って、もちろん事前の確認を仰ぎつつ、大雑把な調整を勝手に試みるエージェント。普通預金には日常的な支払いのための余裕を確保しながら、複数のリスク資産への投資配分をチェックし、取引の手間とコストも勘案した上で、リバランス提案を持ってくる。あとはクリックひとつだ。もちろん、場合によってはローンの側にも手を付ける。すこし進歩的な機能になるだろうが、「下がった買う」とか「上がったら買う」でも、投資判断の領域も含めて自分の望みを理解させておき、「そろそろだと思いますけど、動いちゃっていいですかね」と賢い手足になってくれる。そんな全自動マネーの時代は、到来しつつあるはずだと思う。


ところで、「物価が下落するのは、物やサービスに比べてマネーの量が足りないからだ」という主張を耳にすることがある。果たして全自動マネーの世界で、マネーの量とは何だろうか。物価は下落するだろうか。デフレが到来するとき、足りていないのは何だろうか。