道州独自金利の実現に向けて

地域主導型道州制を支える経済システム

各地域が主導する道州制を実現するためには、それぞれが経済的に自立することが必要です。税収の再配分に頼る部分が大きければ、そのことが政治のバランスにも影響を与えてしまう。互いに切磋琢磨する独立した複数の経済圏からなる道州制を目指すことこそが、地方分権の理想です。その理想を実現するためには、各道州毎に独自の金利を表現するため、共通通貨としての円を廃止し、各道州毎に通貨を分離すること。そしてまた、それらの為替は常に市場で取引され、日本国内に複数の通貨市場を持つことが、大きな役割を果たすはずです。なぜなら、道州がそれぞれの経済に特色を持つとき、景気のサイクルは必然的に、互いに異なるものになるからです。

特色を持つ各経済圏の金利と為替

1999年に実現した欧州通貨統合は、その背景に、域内の物資や人材の流動性の高まりとともに、通貨を互いに統合することによって、為替にかかるデメリットを減じることができ、域内の流動性をさらに高められるだろうという期待がありました。一方で、物理的に遠く離れた地域では、人材や物資の往来も難しく、また経済的な特色が異なるにもかかわらず、同じ金利が適用されることで、結果的には多くの歪みが生じました。ある地域では極度の不景気で、金融緩和が求められる一方で、同時に別の地域では土地価格が高騰し、沈静化に手を焼くといった具合です。日本国内でも、今後の景気回復過程において、地域間でその速度差が生じ、程度の差こそあれ、欧州と似た状況に陥ることは、避けなければなりません。

そもそも金利とは、時間についた価格です。各道州が、それぞれに地域の特色を発揮した政策を打ち出すとき、当然のことながら経済のサイクルは、互いに異なったものとなるはずです。それに応じて、もちろん税収も異なれば、各道州の発行する債券の金利も、また地域の預金の金利も、それぞれに異なったものとなることが自然です。このとき、もし無理矢理に同じ金利と通貨を用いれば、ある地域では好景気にもかかわらず緩和政策を、別の地域では不景気にもかかわらず引き締め政策を、行っているのと同じことになり、資源の効率的な配分を阻害します。道州独自金利の導入を行うことによって、例えば、製造業の強まりとともに景気が上向いている地域があれば、早期に金利は引き上げられ、また為替によって購買力は強くなっていくことが自然ですし、他方で観光を主たる特徴とする地域があれば、そのとき相対的に為替が弱まることによって、当地を訪れる魅力が高まります。新たな産業へのシフトを挑む地域が、そのチャレンジに失敗したときには、金利の引き下げによって貸借が促されることが、経済を自律的にバランスさせる原動力となります。

また副次的効果ではありますが、経済と金利、為替の役割、そして金融システムの全般について、広く我々に対して教育を促す、よい側面が出てくるはずです。「貯蓄から投資へ」と言われて久しい今日ですが、そもそも経済成長に内在するリスクを個々人が自覚し、また社会の意思決定が資本市場を通じて行われる構造を、理解する助けになるはずです。もちろん同時に、為替が投機にさらされるリスクを減じるためには、金融政策の透明化が不可欠です。各道州の経済、財務状況を徹底的に情報開示することによって、それらに対抗しなければなりません。

実現のための技術と設備投資

これはで通貨分離のメリットは、あまり強く主張されることがありませんでした。最適な通貨圏のあり方を探る研究の中では、細分化のデメリットとして、地域を跨ぐ取引に伴う為替のコストが指摘されています。例えば道州を超えて移動したとき、手持ちの貨幣を両替するコストはもちろんのこと、商取引に際しては、相手先通貨の動向を常に気にする必要が発生します。一方で今日、携帯電話や電子マネーの爆発的な普及は、事前の予想を遥かに超える速度で進んできました。テクノロジーの広がりとともに、為替にかかる実質的なコストは、大幅に減らすことが可能であるように思われます。具体的には、例えば通貨圏の境界近くであっても、手元の端末を参照することによって複数通貨での価格表示を促すことは、技術的には容易なはずです。為替レートが時々刻々と変化する状況下でも、インターネットに常時接続する端末は、これを取扱うことができるはずです。個々の通貨使用者レベルでのボトルネックを、こうして容易に取り除くことができる現在、取引市場の整備を行うことによって、国家レベルでの金融イノベーションを起こすことが可能であるようにも思われます。

もちろん、その実用に供した設備の多くは、その後世界へ向けて販売することが出来、日本発の金融システムが世界標準となれば、そのメリットは計り知れないほど大きなものです。制度面では、日銀法を改正し、各道州に中央銀行を分割し置くことが必要になりますが、これに際して金融政策は、スタンフォード大学のテイラー教授が指摘するように、極力裁量を排除し、明確なルールに基づくものにすることが、前述の投機に対抗する意味でも重要となります。中央政府の税収や予算は、必然的に、各道州通貨のバスケットによって構成されることになります。諸外国との取引における利便性を高めるためにも、そのようなバスケット通貨や、各道州通貨間取引のための充実した金融ツールの整備は、やはり欠かせない設備投資であり、また輸出資源ともなるはずです。