機関投資家のための資産と負債の総合管理

巨大な機関投資家は、馬鹿みたいな話だが、資産も巨大だが負債も巨大で、要するに将来に支払うべきお金がたくさんある。保険だとか年金だとかの類はどれも、その形態こそ様々だが、将来にお金を払う(かもしれない)よ、という約束だ。その集合体が、巨大な機関投資家の典型である。


で、将来にお金を払うのなら、将来にお金を受け取るような資産運用を、つまり債券投資をしておく*1ことで、金利の変動にかかる余計なリスクを減らすことができる。はずだ。少なくとも理屈の上では。巷でキャッシュフローマッチングと呼ばれる手法だが、これに毛が生えたのが、ALMだのLDIだの*2言う最近流行りの理屈だ。どれもこれも、資産と負債の総合管理。


ところがこいつは、実際にはあまりうまくない。どこがうまくないかといえば、問題は要するに会計に因る。10年後の今日10億円受け取る資産の評価と、10年後の今日10億円払う負債の評価とが、一般に一致しないのだ。前者としての債券価格は、将来のキャッシュフロー市中金利で割り引くが、後者としての負債評価は、当該契約周辺の慣習によって様々だが、必ずしも現在の市中金利では割り引かない。


このことは金利上昇時に、債券価格下落時に、特に大きな問題になる。資産はそれに応じて減少するにもかからわず、負債は必ずしも連動して減らないからだ。つまり赤字を生み出してしまう。将来の受け取りと支払いは一致しており、金利の変動にかかるリスクは、既に大方ヘッジされているにもかかわらずだ。ひどく単純化して話してしまったが、しかしこの構造は、複雑に入り組んだ形であれ、現実に存在している。しかも巨額だ。


そのようにして赤字を生み出すことになってしまったとき、「これは会計上の問題です」「本当は大丈夫なんです」で済むのだろうか?もちろん、同業の連中も皆一様に赤字なのだから、相対比較の意味では問題にならないかもしれない。ただ、保険契約者や年金加入者からの突き上げに対して、説明は苦しくないだろうか?そこそこよくやっていると思われるGPIFの運用にさえ、常に外野が野次を飛ばしてくる現状で、僕はこの点に対して、悲観的にならざるを得ない。会計上のキャッシュフロー評価の齟齬だけでない。暗くなるのは、未来の長期金利が、波及して影響を受けることに対してだ。


評価の問題を抱えている分だけ、巨大な機関投資家は実際のところ、皆が思っているよりもずっと、債券に投資するインセンティブが小さい。連中が巨額の国債を買っている理由は、単に政策に過ぎない。忠義とか脅迫とか、そんなのでもいい。要するに、いつ売ってもおかしくない。もっと言えば、それが景気回復であるにせよ、国債の乱発であるにせよ、金利が上昇する際には、実は売ったもん勝ちの状況なのである。当然だが、このことは金利の上昇を、債券価格の下落を、加速させるだろう。構造的な「テールリスク」要因である。