相関の上昇から学ぶ
すこしメカニカルに、リスク資産の相関が上昇する状況を捉えてみよう。馬鹿みたいに単純な例を考えてみたい。4つのリスク資産があって、それぞれのリターンにかかる標準偏差は20%、互いの相関は0.5だと思う。どれも1/4ずつ買うとき、ポートフォリオのリスクは16%で、ひとつだけ買うよりも「分散」されている。
相関 | A | B | C | D | 配分 | σ | ||
A | 1.0 | 0.5 | 0.5 | 0.5 | A | 25% | 20.0% | |
B | 0.5 | 1.0 | 0.5 | 0.5 | B | 25% | 20.0% | |
C | 0.5 | 0.5 | 1.0 | 0.5 | C | 25% | 20.0% | |
D | 0.5 | 0.5 | 0.5 | 1.0 | D | 25% | 20.0% | |
計 | 100% | 15.8% |
互いの相関のみが上昇して0.9になるとき、リスクは19%にまで上昇してしまう。こうなると「分散」投資する意味は、より希薄に感じられるかもしれない。
相関 | A | B | C | D | 配分 | σ | ||
A | 1.0 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | A | 25% | 20.0% | |
B | 0.9 | 1.0 | 0.9 | 0.9 | B | 25% | 20.0% | |
C | 0.9 | 0.9 | 1.0 | 0.9 | C | 25% | 20.0% | |
D | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 1.0 | D | 25% | 20.0% | |
計 | 100% | 19.2% |
さて、洗練されたヘッジファンドは、ベータニュートラルなポートフォリオを志向し、提供していることが多い。なぜなら、その方が投資家にとって便利だからだ。ここでのリスクは22%、相関は元に戻してある。
相関 | A | B | C | D | 配分 | σ | ||
A | 1.0 | 0.5 | 0.5 | 0.5 | A | 100% | 20.0% | |
B | 0.5 | 1.0 | 0.5 | 0.5 | B | 50% | 20.0% | |
C | 0.5 | 0.5 | 1.0 | 0.5 | C | -50% | 20.0% | |
D | 0.5 | 0.5 | 0.5 | 1.0 | D | -100% | 20.0% | |
計 | 0% | 22.4% |
互いの相関のみが上昇して0.9になるとき、リスクは10%にまで低下する。当然のことだが、ロングとショートが互いに似れば、全体の動きは小さくなろう。
相関 | A | B | C | D | 配分 | σ | ||
A | 1.0 | 0.9 | 0.9 | 0.9 | A | 100% | 20.0% | |
B | 0.9 | 1.0 | 0.9 | 0.9 | B | 50% | 20.0% | |
C | 0.9 | 0.9 | 1.0 | 0.9 | C | -50% | 20.0% | |
D | 0.9 | 0.9 | 0.9 | 1.0 | D | -100% | 20.0% | |
計 | 0% | 10.0% |
上記は、あくまで(相関の変化にかかる)リスクの話であることに注意されたい。実際の昨年の状況を振り返ると、株は随分と売られたが、ヘッジファンドもひどい成績だった。両者とも、比較的大きな下落だったのではないか。いずれもリスクは高まったろうし、そして互いの相関も、きちんと統計をとっていないが、おそらく平時よりも高まったろう。
メカニカルな分析の与える印象が、あまり実際とフィットしないように感じられるかもしれない。その理由は、現象面で言えば、皆が一様に資金を引き上げる意味では、株だろうがベータニュートラルだろうが同じだろってことだし、CAPMの観点から言えば、つまりそれらはすべて「世界を構成する」リスクなのだ。市場ポートフォリオは狭義のリスク資産だけでなく、「安いものを買って高いものを売る」ような行動すら含んでいる。