CAPMの逆襲(4) - MM定理を自然に拡張する

モジリアニとミラーの定理*1ってのは、もう50年も前に発表された、「資金調達の方法によって、企業の価値は変わらない」という、よく考えてみると当たり前だが、素晴らしく画期的で、かつ刺激的な議論である。どんなものか、超簡単に例示しよう。企業が新たな事業のために100円を調達しようとするとき、以下のどちらでも、投資家にとっては同じことである。

  1. 全額を株式で調達する
  2. 半分を借金で、半分を株式で調達する


新たな事業が成功し、10円の利益が生み出されたとき、1)のケースなら、株主にとってのリターンは10/100=10%だ。一方で2)のケースなら、株主にとってのリターンは10/50=20%である。新たな事業が失敗し、10円の赤字となってしまったとき、1)のケースなら、株主にとってのリターンは-10/100=-10%だ。一方で2)のケースなら、株主にとってのリターンは-10/50=-20%である。


馬鹿みたいな話だが、要するに2)のケースでは株主のリスクは倍だ。ところがその倍のリスクは、同額の金をこの企業に貸す*2ことによって、容易に1)のケースと同じにすることができる。10円の利益が生み出されたとき、10/(50+50)=10%、10円の赤字となってしまったとき、-10/(50+50)=-10%だ。ほら、1)と一致した。つまり投資家にとって、借金を含む事業の計画さえ明らかにされていれば、リスクのプロファイルなんてものは調整できるので、選別の根拠は事業の内容そのものになるのである。実にシビれる話だ。


さて、こいつを世界全体に拡張してみようというのが、今夜の試みである。随分と大層な野望だと思われるかもしれないが、どっこい馬鹿みたいにシンプルなのだ。そして更にシビれるぜ。


「世界中の生産主体が、全体として、株式で資金調達しようが、借金で資金調達しようが、世界中の生産の価値は変わらない。」


これが拡張版のMM定理である。意味するところを、もうすこし考えてみよう。世界中の生産主体が、皆まったく借金をせず株式のみで資金調達するときと比べて、半分を借金で資金調達するなら、株式のリスクは倍になるだろう。とはいえそのとき、世界中の投資家は総じて、残り半分の借金の貸し手になっている。結局のところ、両者のリスクは同じだ。


つまり世界中の投資家は総じて、どっちみち事業の全体に投資することになるのだから、リスクにプロファイルもへったくれもなくて、要するに世界全体のそれだ。覚えておいてほしい。CAPMでは、これを「市場ポートフォリオ」と呼ぶ。つまりそれは、世界の全体のことだ。

*1:http://en.wikipedia.org/wiki/Modigliani-Miller_theorem

*2:彼らはちょうど借金する先を探している