世界との相関がイノベーションを評価する

経済学の事故調査委員会 - 池田信夫 blog
http://blog.goo.ne.jp/ikedanobuo/e/64fbaa6d9640bd4e7b27acf1fb16ea4e

Black-Scholes以来の金融工学は、すべての資産価格が独立に動く(相関がゼロ)と仮定している


してねーよw
追記します、訂正されたそうです。たしかに、事後的に実現する分散や相関にはリスクがあります。


せっかくの機会なので、「相関」が金融に果たす大きな役割のひとつを説明してみたい。ファイナンスの授業で誰もが習うものの、使いどころがさっぱりわからない(と思われている)CAPMだ。個々のリスクにかかる期待リターンE(ri)は、無リスク金利rfと、市場リスクとの関係βiによって決まるリスクプレミアムとで構成されるというのが、CAPMの帰結だ。こんな式。


E(ri) = rf + βi{E(rm) - rf}


「株式の実際のリターンは、ベータと全然違うじゃんか」というCAPMに対する反論をよく見かけるのだが、ここでのベータは投資家の事前の期待を表現するので、その類の批判が最初から的外れであることは自明だろう。で、そのベータの詳細はといえば、こんな連中で構成されている。


βi = Cov(ri,rm)/Var(rm) = ρimσim


詳細は教科書に譲るが、ρimは個々のリスクと市場リスクとの相関係数である。ここで最初の式とあわせて、ちょいちょいと変形すると、興味深い事実が浮かび上がってくる。


{E(ri) - rf}/σi = ρim{E(rm) - rf}/σm


目を凝らして、よく見ていただきたい。なんと、単位リスクあたりのプレミアムは、市場リスクのそれと、市場リスクとの相関によって決まってしまうのだ。ええい、わかりやすさのために、日本語で書いてしまおう。


リスクプレミアム = 世界全体のリスクプレミアム x 世界全体との相関


どうですか。シビれませんか。僕はシビれます。ウヒョー。嘘だと思われるかもしれない。ありえねーと感じられるかもしれない。リスクプレミアムつまり投資家の期待する超過リターンは、単に世界全体との相関で決まってしまうと、CAPMは示唆しているのだ。


直感的な説明を試みよう。例えば、これまでの世界になかった新しい生産と消費を生むイノベーションがあるとする。当然、これまでの世界との相関は、とても小さい。このとき株式を発行して資金を調達する経営者が、投資家に支払うリスクプレミアムは小さくて済む。なぜなら投資家にとっては、現在のポートフォリオと相関が小さいためリスクは分散され、期待される超過リターンが小さくても、投資する価値があるからだ。


一方で、「事業ポートフォリオ」などと称して、多角化を広げる経営者がいたとしよう。それによって見かけ上の安定を生み出せたとしても、そこに独自性がなければ、つまりこれまでのポートフォリオと相関が高いのなら、投資家にとってそれは、あまり魅力的でない。似ているのだから、リスクは分散されないのだから、これまでのポートフォリオと同水準の期待リターンを期待できなければ投資する気にはなれない。ETF以上の価値は見出せない。


狐につままれたような気がするだろうか。しかし考えば考えるほど、少なくとも僕は、非常に一般的で懐の広い枠組みだと感じざるを得ない。告白しよう、僕はCAPMが大好きだ。だからこうして、時々ここに文章を書いている。これからも書く。