モメンタムとは何か

オバマへの苦言*1でも話題になったヘッジファンドAQR*2が、モメンタムのインデックスと、これにトラックする投資信託を新たにスタートさせたとのこと。


Momentum Funds for Small Investors - WSJ.com
http://online.wsj.com/article/SB124753565054536363.html


大雑把に要約すれば、このインデックスは、過去一年間にパフォーマンスのよかった株式上位1/3銘柄によって構成され、四半期毎に入れ替えられる。1000銘柄を常に注視しつつ、過去一年間に好調だった333銘柄を、四半期毎に持つということだ。インデックスの詳細は、彼らのサイト*3で確認することができる。


もちろん背景には、「過去にパフォーマンスのよかった銘柄群は、その後も相対的にパフォーマンスがよい」というコンセプトがあるわけだが、とはいえそんなことが「効率的な」市場*4で起きるはずはない。しかしながら、少なくともこれまでは、実際に起きていたわけで、その理由として考えられそうな事柄を列挙してみよう。

投資家は、新しい情報に対して、思ったほど速く反応しない

そもそも、誰もが血眼になって情報を探しながら生きているわけではない。ひとりでは到底確認できないほど膨大な量が毎日生産されるニュースは、手分けして確認され、担当者の主観で取捨選択され、時に手間隙かけて脚色され、それぞれの投資家に届けられる。受け取るタイミングだっていろいろだ。また、有用な情報が入ってきたからといって、受け取った投資家がすぐに事態を理解し、行動に移せるとは限らない。ひとは一旦思い込んだら、たとえそれが間違いだったとしても、その考えを修正するのには時間がかかるものだ。誰だって一度は、間違えた道を進み過ぎてしまった経験があるだろう。「信じる者は報われる」はずだと、報われたいが為に信じてしまう。

投資家は、利益の出ている投資を早く終了させたがり、損失の出ている投資を続けたがる

合理的に考えれば、投資は未来に向かってするもので、利益が出ていたとしても、まだまだ利益が出そうなら続ければよいし、これまで損失が出ているか否かにかかわらず、今後損失を生みそうな投資を続ける理由はない。ところが実際には、よいニュースが出たときには、「利益確定」売りが出がちなために、その「よい」事実が価格に反映されるには時間がかかる。他方で、悪いニュースが出たときにも、投資家はすぐに売り払うことをためいがちなために、その「悪い」事実が価格に反映されるには時間がかかる。

投資家は、流行の波に乗りたがる

いわゆるデイトレーダーをはじめとする短期の投資家は、直近の値動きをシグナルとして取引しがちだ。波乗りが大好きだ。一方で年金のような長期の投資家は、基本的にはこれを静観している。直近のパフォーマンスを批判的に評価し、即行動に移す場合は少ない。信号が赤か青かわからなくても、みんなで渡ればこわくない。当然の帰結として、価格はトレンドを持つようにならざるを得ない。もちろん、行き過ぎはいつか修正されざるを得ないのだが。


というわけで、モメンタムは実際に効いてしまう。悲しいことだ。もちろん利益を差し出しているのは、思い込みの強い投資家や、とりあえず利益を確定しちゃう投資家や、間違いを認められない投資家や、みんなに遅れて最後に波に乗る投資家である。カモられないように、気をつけたい。


老婆心ながら、モメンタムは、いわゆるグロースとは異なる概念であることに注意されたい。グロースは一般に、バリューと排他的な関係にあって、B/Pが大きいとか小さいとか、そういった指標で分類される。株価と純資産の関係などから考えて、将来の利益成長が期待されていると判断される銘柄群のことだが、要するに非バリューだ。一方でモメンタムは、ここでは株価、場合によっては利益が、実際に成長していることを指し示す。つまり水準でなく、変化の話をしている。

*1:http://zerohedge.blogspot.com/2009/05/cliff-asness-i-am-ready-for-my.html

*2:http://www.aqrcapital.com/

*3:http://www.aqrindex.com/

*4:そこでは過去のパフォーマンスなど、将来の予測に際しては、何の役にも立たないはずだ。