テクノロジーが最適通貨圏を変える

地域によって使われる通貨が違って、何が嬉しいかといえば、異なる金利が表現できるという点に尽きる。このあたり不景気なのに高金利で苦しいとか、このあたり好景気なのに低金利でバブるとか、広域に渡って単一の通貨が用いられ金利の水準が同じときには、そういう齟齬のある地域が現れざるを得ない。お金は一瞬で移動できるが、人や物はすぐには移動できないからだ。


一方で、その交換レートが常に変動することによって、通貨を跨いだ取引は面倒になってしまう。相手のつくる物の値段を考えるとき、常に通貨の交換レートを頭の中に入れておく必要があるし、しかもそれは刻一刻と変わるので、取引には様々な面倒が常について回る。もちろん細々とした要因は他にも様々にあるわけだが、最適な通貨圏の大きさは、大雑把には、こうしたトレードオフによって決まると考えてよい。


ところがテクノロジーってのは本当に凄い。いまや我々が常に携帯する電話は、簡単な掛け算はもちろんのこと、常にインターネットに接続して為替レートを確認するなんてのは、朝飯前なのである。よく考えるまでもなく、これは先のトレードオフ関係の後者のコストを激減させる。シャリーン!支払いを東北円で要求されようが、九州円で要求されようが、レジで電話をセンサーに近づけて決済するとき、我々は札や硬貨について心配する必要などない。価格だって、自分が主に使う通貨でのそれを確認したければ、単に画面を覗き込めば済む。


テクノロジーは最適通貨圏を変える。人と物の流動性を高め、通貨を統合するメリットを追求しようとしたのが、1999年のユーロだ。テクノロジーによって為替の面倒を乗り越え、木目細かに行われる為替と金利の調整によって、経済を活性化させる我々の実験を、今こそ始めるときだと思う。