格付会社は評価対象のベータを推定せよ

時価会計を見直そう」なんてふざけた議論が、米国でさえ行われているというから呆れる。
http://news.google.co.jp/news?q=%E6%99%82%E4%BE%A1%E4%BC%9A%E8%A8%88


投げ売りされて値段がつかないモノをどう評価すんだという、しかもそれが連鎖しちゃって困ってるじゃないかという、すこし難しめの問題はあるにせよ、「いまコレいくらなの」という、その根本に疑問を投げかけちゃ駄目でしょ。便乗して悪ノリしてる連中の顔が目に浮かんでくる。


金融機関だろうが事業会社だろうが年金基金だろうが、評価の問題に現場は常に頭を抱えている。


「いやコレ決められた通りに報告すりゃこうなるけどさ」
「実態と比べると劇的に見えすぎない?」


ネガティブ方向にもポジティブ方向にも*1、こういった事態は起き得るのだがしかし、実は解決方法は馬鹿みたいに簡単である。「実態」を丸ごと見せればよい。


世界中の計算機が繋がっている現代において、とっているリスクの数が多すぎるだとか、それが複雑すぎるだとか、そんなものは超詳細な情報公開をしない理由にはならない。全部足し算すればいいだけだし、「わからない」度合いを把握すればいいだけの話だ。利益を目指す主体にとって、最終的な結果よりもむしろ、打ち手の詳細が問われるようになると考えるのは、状況を鑑みれば当然だろう。


というわけで根本的な主張としては、要するに更なる情報公開を義務づけよという結論なのだが、とはいえ「わかりやすさ」を意識した情報のまとめ方は大切だろう。そこで建設的な提案を、と考えて出した結論が今日の表題である。つまり世界の市場に対して、個々のリスクやその集合がどのくらい感応するのか、我々は気にしようぜと。


お金は世界をものすごい速さで、キョロキョロと飛び回っている。送金は一瞬で行われるし、手数料は飛行機や船の運賃よりもずっと安い。こんなとき、世界中の投資対象としてのリスク資産は比較され、結果としてその価格は連動しがちにならざるを得ない。


E(Ri) = βi{E(Rm) - Rf} + Rf


信用リスクの集合体が、思ったよりも分散されていなかったというのは、要はその感応度の評価が甘かったということだ。で、それらは北米のリスク資産と消費の動向に高く感応していたし、従ってトヨタの業績もそれに高く感応していた。精度はともかく、こうした性質を事前に推定することは、詳細な情報さえ公開されていれば、ある程度可能だったはずである。


もちろん、すべてのリスク資産のグローバル市場との感応度を数値で表現しようとするのは、なかなか難しい。予測と結果は一致しないだろう。しかし難しいからといって、役に立たないということにはならない。ぶっちゃけた話、「高」「中」「低」くらいの大雑把さでも構わないと思う。投資家としての我々が、様々な階層で、この感応度をさらに気にするようになったとき、社会はより安定するはずである。


もうちょっとメタなレベルで言えば、要するに皆が連動すればするほど、投資家にとってより価値を持つのは、利益の独自性なのだ。任天堂のゲームの楽しさは、特殊な住宅ローンとはあまり関係がない。素敵なことである。株が下がったからといって貸し出しを減らすんじゃ、銀行の存在意義などない。不動産業に支えられた放送事業なんて、もはや意味不明である。


市場が素敵を洗い出せるように、我々は利益のための打ち手にこそ注目しようじゃないか。

*1:ポジティブのときは大抵気づいていないが