金融緩和による株高

なるべく簡潔に書こうと思うのだが、円の購買力にリスクを感じるとき、銀行預金から、キャッシュを株や不動産、あるいは外国資産に移動させるのは自然な行動だ。トヨタの商売や東京の不動産は、日銀の財務に比べれば、相対的には狂った政策の影響を受けにくい。最も極端には、例えば別の政府に変わってしまっても、生き残る可能性は決して小さくない。ようにも思われる。その分だけ、対円の価格は高くてよい。対円のドルが高い理由も、部分的には同じだ。


という事実から自然に理解されることだが、株高によって例えば年金財政が恩恵を受けたように見えても、我々の生活をちっとも豊かにしない。それが一体いくらになって返ってくるというのか。スーパーの陳列棚の価格よりも、あるいは趣味の輸入品のタグよりも、自分にとって増分が大きいと思えるだろうか。我々の全体は豊かになっていない。より具体的には、他人よりも株や不動産、外国資産の比率が高かった者が、他人よりも株や不動産、外国資産の比率が低かった者から、移転を受けたに過ぎない。


もちろん日銀や年金が買い出動を強要させられたことや、不動産投資だろうがカネを貸せと銀行がお上に脅されたことは、こうしたメカニズム以上に株や不動産、外国資産を押し上げている。株や不動産が上がって悪いことがあるのかと、開き直る政治家も少なくないようだが、投機屋なら誰でも知っている。必ずしも利益のみを目的としないフローによって将来のリスクプレミアムを先取りしたところで、単に税金を確定させるだけだ。後で下がれば目も当てられない。